マフィアの花嫁

1/16
前へ
/149ページ
次へ

マフィアの花嫁

 そうして式当日を迎えた。  朝から雲ひとつない晴天に恵まれて、若い二人はもとより両親や親族たちも喜びに湧いていた。日本の東京からは弟の焔とその友人の鐘崎、一之宮も駆け付けて、式場内の控え室は歓喜に満ち溢れ賑やかであった。  そんな幸せに一気に翳りを落とすこととなったのは、着替えの為、美紅が義母の香蘭と共に花嫁の控室へとやって来た時だった。 「まあ……なんてこと……!」  美紅よりも先に香蘭が驚愕ともいえる表情で声を詰まらせる。なんと、今日この日の為にオートクチュールで新調した純白のウェディングドレスに墨汁のようなものが掛けられて、所々に真っ黒な染みが撒き散らされていたのだ。それを目にするなり美紅もまた驚きで言葉を失ってしまった。  話を聞きつけてすぐに風と父親の隼らが隣の新郎控室から飛んで来た。 「これは……」  さすがの風も絶句させられる。  ドレスの側の床には墨汁と思われる空の容器が転がっていて、絨毯にもこぼれ落ちた染みがこびりついていた。 「なんてことを……いったい誰が」  誰もがすぐに優秦の顔を思い浮かべたが、彼女は父の楚光順がファミリー直下を去ったと同時に家族共々外国へ移り住んでいて、もうこの香港には居ないはずだった。
/149ページ

最初のコメントを投稿しよう!

964人が本棚に入れています
本棚に追加