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「まさか優秦がまだ諦め切れずにこんなことをしでかしたというのか……」
由々しき事態に頭領・隼も額に青筋を浮かべる。だが証拠がない以上、彼女の仕業だと決め付けるには早いか。
風の結婚に関して羨んでいる者は多い。もしかしたら全く別の誰かの仕業ということも考えられるが、いずれにせよもう式までは時間がない。今は犯人を追及するよりも代わりのドレスを何とかすることの方が先決だ。
「仕方がない……こうなったら式場に言って別のドレスを調達するしかなかろう」
せっかくこの日の為にと二人で選んで作ってもらった世界に唯ひとつのドレスだが、さすがに今から墨汁の染みを拭い去るのはどう考えても不可能だ。式場にあるレンタルのドレスで凌ぐしかない。
早速手配をと言って部屋を出て行こうとする風を美紅が引き止めた。
「待って、黒龍」
「……?」
「待って……。せっかく貴方に作っていただいたドレスよ」
「だがメイ……これでは」
「それに……この染みの模様なら活かせるかも知れないわ」
どういうことだと全員が彼女を見つめる。美紅はその場にしゃがみ込んで墨汁の容器を拾い上げると、
「よかった。まだ少し残っているわ」
そう言って、芳名簿用に用意されていた筆を手に取った。
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