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その発想に風はむろんのこと、両親である隼も香蘭も、それに弟の焔らもその場にいた全員が絶句するほど驚かされてしまった。
「貴女という人は……」
風は感動ですぐには言葉にならないほどだった。そしてすぐさま言われた通りに服を脱ぐと、うねる龍が舞う背中を晒してみせたのだった。
「ありがとう黒龍」
美紅は筆を取り、広げたドレスの布地へと龍を描き付けていった。その腕前はなかなかのもので、みるみると風の背に舞う刺青に似た龍図が出来上がっていく。
ウェディングドレスに墨で絵を描くなど前代未聞だが、完成してみれば見事であった。しかも図柄は愛する夫の字、ファミリーの証である。その大胆ともいえる発想はもちろんだが、実際に形にしてしまう力量にも閉口させられる。何より窮地を力に変えてしまう美紅の器の大きさはあっぱれという他なく、絶賛に値するものだった。
父の隼も弟の焔も脱帽だと言って感嘆し、母の香蘭などは感動で堪らずに涙する始末である。
そうしてドレスが出来上がると、風は自らのタキシードのジャケットを差し出しながらこう言った。
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