マフィアの花嫁

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「花嫁さんもお心を痛めていらっしゃるでしょうに……。アタクシなら泣いて騒ぐところですわ。せっかくの晴れの日だというのにお気の毒なことね……」 「ファミリーのことですもの。もう犯人は分かっていらっしゃるのかしらね?」 「犯人だなんて、あなた! ファミリーに聞こえたらアタクシたちもただじゃすみませんわよ!」  既に式が始まっているというのに、場内では至る所でヒソヒソ話が絶えずに奇妙な空気が蔓延していく。  口では気の毒だの恐ろしいことだのと言いながらも、皆一様に心のどこかでは真相に興味津々というのが明らかだ。口さがない婦人たちがざわつきを見せる中、そのいでたちから何があったのかをいち早く理解したらしいお隣台北と上海のマフィア頭領が、わざと周囲に聞こえるような張りのある声音でこう言った。 「何と素晴らしいカップルだ! 風君はこれ以上ない器の大きい嫁御を娶られましたな」 「仰る通りですな。お父上の頭領・隼もさぞご自慢のことじゃろう。将来も御安泰で先が楽しみじゃわい」  歓喜するように瞳を細めて絶賛したのを機に、参列者たちも二人の衣装について言及することはなくなった。
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