切り出したい。

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実家の母が心配して電車で1時間ほどの 街から駆けつけた。 生活感の溢れる空間に居るのが辛かった。 子供を母に預け、私は化粧を直し、 友達以上、恋人未満のカズキという7つ下のに会いに行った。 夫とは調停にはなるが、 確実に離婚する事をカズキに話そう。 久々のワンピース、時間をかけた化粧。 いつも会っていたホテルのレストルームに 入り、綺麗に巻いた髪を下ろした。 部屋に入ると彼の横にピッタリと 体を寄せ、座った。 耳元で 「わたし、離婚する事になったよ。」 と、カズキに伝えた。 ヒロと別れる事を望んでいたカズキは、 前髪を直しながら、 「え。」と驚いた。 意外な反応だった。 「え。だって、ヒロと別れて結婚したいって…」 窓から急に夏の終わりを体温をさげるような 風が肌を撫でた。 「俺、ミキと結婚したいって、いつ言った?」 「え…。だって、私が去年産んだあの子、 カズキの子……私たち、結婚…」 言い切らないうちに言葉は遮られた。 「お前が産んだんだからだろ?」 「そ、そんな・・・ もう、離婚届は書いてあるし、弁護士だって 雇ったんだよ。」 「俺、お前に何にも頼んでないよ。」 「でも、子供はあなたの子供じゃない!」 「誰の子かなんて、 旦那の居るやつの事、信じると思う?」 「・・・ち、違う!カズキとしか。」 「うるせーんだよ!!自分、いくつだよ? 俺は気楽に金のある女と遊べるから 良かったんだよ。 責任とかそういうの、嫌なんだよ!」 カズキはそういうと、 1人でホテルを出て行った。 夫との結婚記念日に離婚届を書いたのに、 やっと離婚できるのに、子供の父親である 恋人は呆気なく、私を置き去りにした。 脳裏に子供の泣いている姿が映る。 愛してもいない男との離婚を切り出し、 行動に移したのに、何も残らないなんて… 我が家のベランダから飛び降りたナナも、 こんな気分だったのだろうか。 膝から崩れ落ちる様に床に座り込んだ私に 窓から入る風が冷たさを増した。 恋は盲目・・・か。 (切り出したい・完)
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