1 気づいたらもう父と会えない…

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1 気づいたらもう父と会えない…

第一章 1/4話 私は松島セバスチャン彰と呼ばれる。 実は私は生来の日本人だが、この名前がただ生まれる前に父はドイツに転勤する計画があって、ヨーロッパによくあるセバスチャンの名前を私に命名した。その転勤した国は結局アルゼンチンとなったが、この名前がまだ一般なので、彰より周りの人は彰ではなくてセバスチャンと呼んだ。 私が五歳のとき両親は別れることになって、本来であれば私は母と一緒に日本に帰るはずだったが、私は外国の父といることになった。年末、父の友だちの誘いで私たちはモロッコに行き、七ヶ月の間いろんな周りの国に旅したそうだが、写真を見ないとあまり私の記憶には残っていなかった。父はデンマークに転職し、そこで私は小学校に入った。もう引っ越す予定がなく、デンマークで気楽に日々を過ごしていた。もし、私の小学五年生のときに父が事故にあわなければ私はずっとここにいたかもしれなかった。 クリスマスの長い休みが終わって学校がはじまると、ある日の放課後珍しくヘリーンさんは正門で私を待っていた。父の彼女ヘリーンさんは笑顔でいつも私のことを応援した優しい小柄な女の人だった。彼女とは三年前に初めて会った。当時週一回食事をしていた。私はただ父のそばにすわっているだけだったが、そのうち頻繁に会うようになって一緒に旅行することもよくあった。ヘリーンさんの息子は、私より三つ下で幼馴染だった。彼らの家に行くといつもゲームなどをして弟のような存在だ。 アクシデントが起きたとだけヘリーンさんは伝え、急いで彼女の車に乗ると父は病院にいると言い足した。今朝、父はコペンハーゲンの郊外をいつものようにバイクに乗って出勤した。道が滑ったせいかわからないが彼は道端に転んだ状態に発見されたそうだ。病院に着くと彼は重体でまだ手術が行われていて、私たちは手術が終わるのを待っていた。もうそとはすっかり暗くなっており、ヘリーンさんは私家に泊まるかと私に聞いた。「私はヤンニおばさんの家にスヴェンを迎えに行くから、彼はセバスチャンと一緒にいたら大丈夫ね」 「でもヘリーンさんはどうする?」 「私はちょっとあとここに戻る。お父さんは絶対大丈夫から、安心してよ」 と彼女は答えた。 五日くらい経って次の記憶は私は黒い喪服の姿で、赤いきれいなクルミの木の棺が下される過程を見ているところで、そのとき私の隣には母と父の親戚も立った。なぜデンマークで父を埋めたか、それは父がヘリーンさんに言い残したことだろうか、ただ便利だからか、私は知らなかった。デンマークにいたかった私もうだれもいないマンションに一人で生活してもいいとヘリーンさんに伝えても、そのあと大人たちは、私の母も含めてなにか話し合ったようで私は今通っている小学校を卒業すると日本に帰ることとなった。 父の遺品は親戚が整理をした。ヘリーンさんの家に引っ越した私は、その週末に父のマンションに行くと、もう価値があるものはほとんどなくなっていて、それには骨董品など以外置時計、酒、魔法瓶も含まれた。それは持って帰国するのは面倒なので変じゃないかと思うから、ただ私の記憶違いかもしれない。リビングにイヤホンを置きっぱなしにした記憶には自信があったが、探しても見つからなかった。 その間ヘリーンさんは部屋をまわって、残ったものをアレンジしてSNSで父の知り合いに見せるための写真を撮ると、私になにがほしいものがないかと聞いた。「本とかちょっと取ってもいいじゃない。SNSで公開したら全部取られちゃうと思うよ」 私はうなずいた。「でもヘリーンさんはまたここに来るでしょ、その日」 「ものをあげる日?」 「はい」 「うん、ね。来週の日曜に来て、もしその日に残ったものは大切じゃないならもう終わりにすると思うよ」 そう言うとヘリーンさんはまた集中してティーカップのセットをダイニングテーブルにきちんと並べ携帯で写真を撮りはじめた。本棚をしばらく見ると、このままに置きたくてなにもさわりたくない気持ちになったが、親戚やほかの人たちも、一つずつものを取っているからそろそろ残りも少なくなって、次の住人のためきれいなマンションにするようじゃないかと思った。このマンションのなか、父のデスクみたいに見るたびにとなんかの気持ちがあって、仕事の書類のそばによく彼はコーヒーカップを置いていて、こぼれたせいか木製のデスクに丸いカップの跡が深く重なって、簡単に取れるかわからなかった……これはどうしたらいいのか。 本棚を少し見ていると、近接の部屋からスヴェンの声が聞こえた。彼も一緒にここに来て、さっきまで隣さんのワンちゃんとあそんでいた。私のところに来た彼の手は小さな像があった。「これ持ち帰られるかな」 それは四、五年前にニジェールから買ったお土産で、木製の人間象だった。私は答えた。「いいよ、気に入った?」 「うん、なんかお化けみたい!」 父の本は多かった。英語の本と少しのデンマークの本が本棚に並んでいて、かろうじて空いたスペースは置かれた二つの箱で埋まっていた。彼の知り合いは本が好きな学者のタイプは多くいとヘリーンさんは言って、まもなくすべて引き取られると彼女は確信していた。私は五冊えらんだ。 遅い時間に終わったので私たちは帰る途中にあるバーガーチェーン店で夕食をすませ、それから家に着いたのは八時だった。普段は寝る前、宿題がなければ読書をして過ごしているが、最近は母から日本語の教科書をもらったのでそれで勉強していた。少しは日本語がわかると思っていたが、『あ』と『お』や『ぬ』と『ね』をよく書き間違って、『ま』と『ほ』、『ら』と『ち』、『さ』と『き』を何度も読み間違えていたと気づいて、改めてひらがなとカタカナを覚えていた。明日の昼前、日本の午後六時に母とビデオコールする予定があったので、この練習を完成させて彼女に見せるつもりだった。 それを夢中で書いていると、十一時くらいヘリーンさんがベッドルームのドアをノックして、まだ寝ないかと彼女は聞いた。「うわー、日本語を勉強しているの」 「はい。ちょっと残ってるけど、そろそろ寝るよ」 「すごい頑張っているね!」 再来年日本の中学校に入学するため、実は千くらいの漢字を覚える以外にそれらを自然に書けたり滑らかに読む力も当然必要だった。私の帰国することの難関について母はヘリーンさんに詳しく説明したようで、今ヘリーンさんはひらがなとカタカナだらけの練習用ノートを見ると、これは日本語の一番簡単な部分だとわかったらしい。 ヘリーンさんはしばらく書いた言葉の読み方を聞いたあと、自分の名前を書いてみてと言うので私はそう書いて読んであげた。そして彼女は首を傾げながらも発音して見せた。慣れない様子でもう一度発音すると彼女はちょっと笑った。「難しいね、セバスチャンの発音の方が似ているかな」 「うん、でも似てない発音も多けど」 「じゃあ、私は寝るよ。セブくんも早く寝てね」 おやすみと言って出ようとした彼女を私は呼び止めた。「ヘリーンさん」 「はい?」 「もし私がここにいたかったらだめかな」 振り向いた彼女は、少し私を見ると答えた。「なんか心配してるの」 「このままでもいいじゃない。こんな日々……父といたときだれにも問題はなかったのに、なんで急に私を帰らせるのだろうと思っただけ」 「そんなことないよ。ただセブくんはお母さんといてほしいな。なんせこの世界で一番セブくんを愛しているのはお母さんなのだから」 「でも私は彼女と全然会わなかった」 「信じて、セブくんが帰ってきたら彼女は本当に嬉しいの、私も母親だからわかるよ」 私はうなずくと言った。「……ヘリーンさんは私にいてほしくないじゃない」 「え?」 「自分の子どもじゃないし、負担だから、早く日本に」 「いえいえ、全然負担じゃないよ。私は大丈夫と言ったけど、あなたのお母さんはこう主張したの。もしかしてもう一度彼女と話した方がいい?」 「……日本で就職するなら、日本語がちゃんとできないと問題あるみたい。彼女はいつもそう言っている」 「本当でしょうね」 「でもいつ私が日本にいたいと言った?……ここにいるのはそんなに変かなと思う。日本に帰って、いろいろなものごとを勉強すべきだなんて、ただ日本人のせいじゃないか。ヘリーンさんはいつも好きなことしてもいいと言ったのにできないんだ。結局私は外国人……日本人だから、そう決まったんだ。『日本人』らしくしないとみんなは不満だ」 「そうじゃないよ。セブくんがそこでちゃんと生活をできるか、まだ心配してるの。ただせめて、日本ならセブくんの親戚がいて、優しくしてくれる人もいるから、ここより温かいんじゃないかなと思うだけだよ」 「彼らのこと全然知らないよ」 「大丈夫よ。家族といて、地元に自然もあるそうだし楽しそうじゃない」 私はちょっと考えた。「……ヘリーンさん、スヴェン、みんなとここにいたいんだ」 「私はどこにも行かないよ。連絡できるし、また会える」 そう聞いてなにか言いたかったが、結局私はただうなずいた。
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