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宝の山の匠ドワーフ⑭ ハートのアルコンスィエル
目を開けるとアンジュとアンジュの母が抱き合っており、二人の傍には罅が入ったユミルの耳飾りと二つに割れたピンク色のネックレスが落ちていた。
「邪魔をされただけでなく使い物にならなくするとは。モノの価値がわからぬとは愚かだな。わざわざ足を運んだというのに無駄な時間を過ごした」
赤い竜はそう言うと人の姿に戻り、レッドキャップと共に姿を消す。
「魔族って意外と単純だね」
「どういうこと?」
「スライ、ユミルの耳飾りを回収しておいて」
「ハイデース!」
スライはそう言ってユミルの耳飾りを飲み込んでしまう。ラルムは二つに割れたピンク色のネックレスを手に取り、両手で包み込み軽く揺する。手を開くとネックレスが壊れていない状態に戻る。
「これはどういうこと?」
「魔法で壊れたようにみせかけていただけで首飾りも耳飾りも壊れてはいないよ。この世界には大きく分けて二種の魔法があって。僕らが使う魔法と魔族が使う魔法は異なる。魔法の根源がまず違う。だから僕らが使う魔法は魔族には見えない、感じないこともあったりするというのが簡単な説明ってとこかな」
改めて異世界というのは知らないことばかりで興味深いなと思った。
それから私たちはグランの元へ戻り、この件のお礼としてドワーフ族のアルコンスィエルであるネックレスの中に嵌め込まれていたピンクの石を贈呈された。アルコンスィエルは扱いが難しいモノらしく他の者に奪われるくらいならブルードラゴンの長であるラルムに預かってもらうということらしい。長同士の決め事なので詳しくは聞いていないが。
ブルードラゴンの時は三つの泪が一つのアルコンスィエルになったが今回はこれ一つ。アルコンスィエルのカタチには意味があるようでドワーフ族のピンク色の石はネックレスから外すとハートのカタチをしていた。単純にピンクのハートは愛のカタチのイメージだけどどういう意味があるのかはわからない。
そして私たちはユミルエルデの脅威を取り除いたヒーローとして歓迎されることとなり、三日三晩宴が催された。宴というよりお祭りに近く出店が並び、夜になると夜空を楽しむための場所が解放されや花火が打ち上げられた。ドワーフたちは酒に強いらしく酒を水やジュースのようにガブ飲みをするし、挨拶がてら乾杯といって一杯を一気飲みさせられるしで私は途中から記憶がない。
そんな少し二日酔いが残る中、次の旅先への準備をしていると出かける準備が整ったアンジュがやってきた。
「アンジュ! せっかくだからもう少しここに残ったらいいのに」
「ノア様、お心遣いに感謝いたします。しかし今の私は母と暮らすより叶えたい目標がありますのでそのために生きていこうと思います。それにこれからの母の暮らしを邪魔したくはありませんので。きっと私がいたら母の負担が増えてしまいます。今は離れているのがお互いのためになると思いますので、これからも一緒に旅をさせてください。お願いいたします」
私はアンジュに手を差し出し、これからもよろしくという意味を込めて握手をした。アンジュは嬉しそうに満面の笑みをみせる。私もアンジュに笑顔を返したつもりだが笑えているか正直わからない。私は自分のことを昔も今も話すことを避けている。その方が人と距離を置けるし干渉せずにいた方が表面的でうまくいくと思い込んでいるからだ。そんな私だからか私の周りにいる人たちは自分のことをペラペラと話す人はほとんどいない。同じ距離感を保ってくれる。だから私は根掘り葉掘り、相手の事情も過去も聞かないようにしている。
しかし昨晩、酒に酔って居眠りをしていたところにアンジュ親子がやってきて二人の会話を偶然にも聞いてしまったのだ。
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