宝の山の匠ドワーフ⑮ アンジュの出生の秘密

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宝の山の匠ドワーフ⑮ アンジュの出生の秘密

「アンジュ、貴女に話しておかなければいけないことがあるの。好奇心旺盛な私は色んなことを学びたいと思い、旅をしながら暮らしていたの。そんな時ね、大恋愛をしたの。その時は相手がエルフだと思っていたの。まだ他種族とは交流はあっても恋愛はしてはいけないみたいな雰囲気があってね。それでも私たちは愛し合ってアンジュを授かったの。でも授かったのがわかると相手はいなくなってしまったの。生まれた時にはアンジュには小さな天使様の翼があった。そう、アンジュはとある大天使様の子だったの。昔はどの町もドワーフを受け入れてくれなかった。だからユミルエルデに戻って来るしかなかったの。でも当時は純粋なドワーフではない者がユミルエルデに入ることは許されなかった。私は魔道具のアイテムを作って、アンジュの中にある天使の力を抑えることに成功した。そして従兄に夫という形を取ってもらい、ユミルエルデで生活することが出来たの。私はアンジュと仲間たちに罪悪を持ち生きてきた。そして私とアンジュを捨てた父親を憎んでいた。私が出来ることは仕事をして恩返しをすることくらいしかなかった。仕事に打ち込んでいればそのことも忘れられていた。私は父親に似たアンジュの顔を見ると辛くなってしまってずっと避けて生きてきた。本当にダメな母親だったわ。それなのにアンジュは私を見ると笑顔で迎えてくれた。そしてこんなことが起きて私は貴女に救われた。本当にありがとう。そしてごめんなさい、アンジュ」 「謝らないで。私は生まれてきて幸せですわ。私を生んでくれて育ててくれてありがとうございます。私には目標があるので明日には旅立ちますが、どうかこれからもお元気でいてくださいね」  アンジュはトレフルが見えなくなるまで手を振り続け、一人になると声を抑えながら大粒の涙を流していた。私は寝たふりをして過ごした。そう何も聞かなかったことにしよう。私は友達が欲しいといいながら距離を保ち表面的な話をする、臆病のままだ。  アンジュがいなくなってから思いの丈を声に出したいと思った。本当は本人にコトバを伝えなきゃと思う、でもやっぱりどんな風にどんなコトバをかけていいのかわからない。直接、コトバを伝えられないからせめて想いを声に乗せてみることにした。  いつもの推しの曲で自分がここにいて、存在していいんだと思わせてくれた曲「I'm a genius at finding you」を唄おう。アップテンポで明るい曲だけど実はそこには嫉妬が隠されている曲。とても辛く苦しい時に明るい曲を作ることがあると言っていた推し様。私も辛くて痛い時こそ笑顔にならなきゃっていつも過ごしていたっけな。心配させてはいけない、隠さないといけないという気持ちが逆に明るく元気にみせかける。 「出会いがあるから今がある」そんなリリックがとても心に染みるんだ。  アンジュとの出会いとこれからと。アンジュ親子へこの想いを届けと願いを込めて唄う。空にはたくさんの星空と蛍のような光るイキモノが踊っている。岩山の上は涼しい風が吹き、標高が高い場所にしか咲かない花の花びらと香りが舞っている。 「ノア、君の唄声はいつも優しく温かい。僕にはコトバの意味はわからないけどなんとなく寄り添ってくれているような気がする」 「ドラゴンにはノアの唄うコトバがわからないのか。私にはわかるぞ。マスターの唄声はもちろんのことコトバがとてもいい。そしてコトバとココロが合わさることでマスターの唄は聴くもの全てに安らぎを与えてくれる」 「サニー様はどんなコトバでも理解できるんですね」 「まあ、そういう立ち位置にいるからな。ただコトバがわかるかといってそのコトバに込められたモノまでは理解できるわけではない。思考により同じコトバでも真逆の意味になったりする。特に人はその傾向を強く持つ。そして嘘は空気を吸うように吐くのだ。私を信仰する者たちは自分さえよければ他人や家族さえどうでもよいと考え、自己中心的な願いを口にする。だからコトバなんてものは汚いものだと思っていた。しかしノアの唄声から発せられるコトバは嘘も偽りもなく、ただ誰かを想い誰かに届けたいという優しい気持ちが溢れている。だから私は今ここにいる」  私は唄いながらも声を聞き、少し嬉しくなったので推しの曲を数曲唄うことにした。推しの唄で私が救われ幸せな気持ちになったように推しの唄が誰かのためになると願って。
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