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明彦の頭の中で、咲紀のメモと行動がパズルのように当て嵌まる。
ある仮説が浮かぶ。
だが、それを言葉にすることはできなかった。なぜなら、それはあまりにも荒唐無稽で信じ難いものだったから。
そんなはずはない。
明彦は自分にそう言い聞かせる。
ただ、同時に良かったとも思っていた。
女性の人生を踏みにじった男が、何の罰も受けずに、のうのうと生きている。
許されないことだ。
真境名咲紀の墓に明彦が訪れた際、愛美と出会った。彼女は墓の前で手を合わせていた。
そして、立ち上がり振り返ると、明彦と目があった。
愛美は明彦に会釈して、通り過ぎた。
明彦は呼びかけられた。
明彦が振り向くと、愛美は微笑んでいた。
その笑顔を見て、明彦の胸の奥底で、何かがざわめいた。
まるで、得体の知れないナニカが自分の中に入り込んでくるような感覚。
明彦は思わず、一歩後退する。
その瞬間、愛美の顔から表情がなくなった。
「刑事さん。もう一人、死ぬかも知れませんよ」
明彦は驚き、愛美は続ける。
「だって。咲紀に、あの男を紹介したのは、私だから。許さない、でしょうね」
そう言って愛美は、その場を去った。
明彦の身体には、辻井克幸の変死体を見た時に感じたのと同じ、悪寒が走っていた……。
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