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「咲紀はユタになっていたかも、ということです。神霊・死霊・精霊と交渉を持ち意志を聞くことのできる人を死に追い込んだ。霊力を有した人の魂。それはどんな意味になるんでしょうね」
明彦は、背筋が凍りつくような感覚を覚えた。
彼女の瞳には強い怨念が宿っていたからだ。
その7日後、辻井克幸が死亡しているのが発見された。
場所は15階建て最上階の自宅マンション。
発見前は玄関もベランダも施錠されており、外部から侵入した形跡はなかった。
だが、部屋は争ったように家具や調度品が散乱し、壁紙が剥がれ落ち、ガラスが内側から割れている箇所もあった。
発見時の40分程前に克幸が叫ぶ声を聞いた隣人の証言によると、言い争うような恐怖に怯えるような叫びだったという。その余りにも異様な声に、警察へと通報が入り、警察官が発見したというのが経緯だ。
克幸は、ベッドの上で首吊り死体となって発見された。
状況だけなら自殺だが、克幸の首には無数の吉川線があった。ロープ等で首を絞められれば、自殺でない限り相手は当然抵抗する。その際に、首を掻きむしってできる、ひっかき傷のことを法医学や鑑識の世界では吉川線と呼ぶ。
つまり、部屋の状況だけなら自殺だが、死体は他殺としか考えられないものだったのだ。
しかも、克幸の首に巻き付いていたのは人間の髪の毛であった。
警察は自殺と他殺の両方を視野に入れて捜査を開始したが、有力な手掛かりは得られていない。
刑事の豊田明彦は、真境名咲紀が残したあのメモを見ていた。
逆立ち女。
それは、沖縄に伝わる怪談話だ。
男には美しい妻がいたが、嫉妬深い男は妻の浮気を考えていた。そこで妻は夫への愛を誓う為、鼻を削いで他の男を近づけないようにした。
しかし、男は美しくなくなった妻を嫌い、浮気をする。夫に裏切られた妻は体調を崩し死んでしまうが、幽霊となって現れる。夫は幽霊が現れないよう妻の両足に釘で棺桶に打ち付けた。
すると脚の自由を奪われた妻の幽霊は、今度は逆立ちをして現れるようになり、夫を呪い殺したという。
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