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当初、咲紀は口を貝の様に閉じて語らなかったが、愛美の思いやりを感じたのか、咲紀は語り始める。
咲紀には付き合っている男性がいた。
名前は辻井克幸と言い、一流企業に勤めるサラリーマンだ。
彼は、背が高く容姿端麗で、仕事ができる上に気遣いのできる優しい人間であり、女性からはモテて当然という感じの男だ。
ある日、克幸とデートしている時にカフェに入ることになった。咲紀はコーヒーを飲むのだが、その際に誤ってカップを落とし割ってしまう。
すると、男性店員が慌てて掃除をし新しい物を持ってくるが、咲紀と男性店員が話していると克幸は、それを払い除けてしまった。
そして、怒り狂ったように叫び始めた。
その時の彼の表情を見て、咲紀は動揺を覚えた。まるで別人の様に恐ろしかったからだ。
だが、克幸はすぐに冷静さを取り戻し、咲紀に謝った。
理由を訊くと、咲紀が他の男と話すのを見るだけで嫉妬してしまったらしい。
その日から、克幸は咲紀の行動一つ一つに敏感になり束縛するようになった。少しでも他所の異性と話していれば怒られたりもした。克幸は、自分以外の男が話しかけることさえ許さない程だった。
克幸からの束縛が酷くなった。
外出する時は必ず連絡を入れろと言われ、連絡を入れなければ怒られた。
電話に出なければ怒鳴られ、メールに返信しなければ無視された。
仕事中であっても関係がなかった。
毎日のように電話をかけてきて、仕事が終わるまで待っていたこともあった。克幸の疑念は、次第にエスカレートしていき、最終的には浮気まで疑われた。
嫉妬心は自分が愛されていることの裏返しと思い、それからというものの、咲紀は毎日のように彼氏の機嫌を取るために尽くすようになった。
辛い日々だった。それでも、咲紀は必死に耐え続けた。いつかは、自分のことを理解し信じてくれると疑わなかった。
しかし、克幸の心が変わることはなかった。それどころか、ますます酷くなり、ついには暴言を吐くようになっていった。
そんな、ある日のことだった。
克幸は咲紀に対して、ある要求をしてきた。
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