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「飽きたんだ。だから別れた方が良いと思う。俺は結婚するつもりはないよ」
それを聞き、咲紀は愕然とした。
まさか、こんなことを言われるとは思わなかったからだ。
克幸は、咲紀が浮気していると疑っていた。
咲紀が本当に浮気をしていて、別れを切り出されたのだとしたら、納得できた。
しかし、克幸の言葉には続きがあった。
「俺さ、好きな人ができた。だから、もう咲紀のこと好きじゃない」
その言葉を聞いて、咲紀は目の前が真っ暗になった。
「……そんな。私、克幸さんの為に顔に傷を入れたのよ」
そう言って、咲紀は眼帯を引きちぎって、素顔を克幸に見せた。傷口はすでに塞がっていたが、縫い傷が残っていた。
咲紀の傷を見ても克幸は眉一つ動かさなかった。
そして、彼は言った。
「ごめん」
それは咲紀が望んでいた言葉だった。
しかし、それは同時に最悪の形で裏切られた瞬間でもあった。
「だけど。俺の気持ちが変わらない限り無理だと思う。それに、お前が勝手にやったんだろ」
克幸が言っていることは、ある意味正論である。顔の傷は克幸が要求したものではない。咲紀が克幸に操を立てるために自分で考えて行ったことだ。
「その傷、見る度に思ってたんだ。醜いってね。だから手を握る気にもならなかった。さっきキスしたのは、自分への確認のため」
克幸は自分の唇を拭って、地に唾を吐いて続ける。
「してみて分かった。俺にとってお前は、その辺にいるババアと同じで、気持ちは無いってことが理解できた」
克幸は淡々と語り、冷たい目で見下す。
咲紀は何も言えなかった。
何もかもが否定されてしまったのだ。
咲紀は理解した。結局、克幸は自分のことをどうでも良かったのだと。そう思うと涙が出てきた。
それから、彼は咲紀を置いて去って行った。
咲紀は追いかけることができなかった。
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