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そこにはこう書かれていた。
逆立ち女に 私はなりたい
愛美は、それを見た瞬間に理解する。足首を縛ったこと、咲紀がどんな思いで書いたのか。なぜ、そんなことをしたのか。
明彦は、愛美の表情に起こった言葉にできない程の些細な変化に気づく。
「……さあ。何のことか」
愛美は醒めた表情で答えた。明彦は何かを知っているのを直感的に感じたが、確証がないだけに、これ以上は踏み込んでも意味がない領域だと悟る。何かの意味があるにせよ、他殺ではないことから、遺体は遺族のもとに返され、この件は終了となる。
事情聴取が終わり、愛美は警察署を後にした。その足取りはしっかりとしたものだったが、涙を必死に堪えていた。
愛美は警察署の昇降口を降りて、明彦に振り返って訊く。
「刑事さん。ユタって知っていますか?」
「ユタ?」
明彦は聞いたことの無い単語に戸惑った。
ユタとは、沖縄や奄美群島などにいる霊媒師兼占い師のことだ。
通常はカミダーリ(神がかり)という現象を得て、その後、御嶽などを巡り修行を積んでユタになるとされる。
カミダーリになった人は突然、原因不明に発狂をしたり泣きじゃくったりする。その切欠は、病気や近親者の死、離婚など。
つまり、何かの不幸な心の苦しみを乗り越え、神もしくは霊的な存在の導きによって、必然的にユタになるのだ。
「真境名って姓は聞き慣れませんよね。咲紀は生まれも育ちも、ここですが、両親は沖縄出身で、お婆さんはユタだそうです」
明彦は納得した。聞き慣れない真境名という姓に違和感があったのはそういうことだったのかと。
そして、愛美の言葉で、彼女が咲紀のことをどこまで知っているのか、分かった気がした。
「何を、言われたいのですか?」
明彦の問に、愛美は不敵な笑みを浮かべる。
そして、彼女は告げた。
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