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その日、出社した彼女を見た社員は一様に驚いた。
彼女・真境名咲紀は、しなだれた花の様に線の細い女性だ。
雪解け水をすくって通した様な透明な白い肌と、雨に濡れた黒檀の様な艶やかな黒い髪。相反する色があったが、それが美しさを引き立てていた。凛とした鼻筋の通った細面の高雅な顔立ち、切れ長の瞳は知性を感じさせる。
そして、薄く桜色の唇。艶やかな髪からちらりと見えるうなじ。流れる水が形作った様な、ほっそりした身体つきは華奢で可憐さがあった。
日本人でありながら、異人の様な気品を持った風情で、会社の男性社員だけでなく女子社員からも憧れられていた。
そんな彼女が左目に大きな眼帯をつけて出社してきたのだ。誰もが驚きを隠せなかった。
だが、咲紀に声をかける者が現れた。
同じ部署の同僚である今村愛美だった。
彼女は明るく人懐っこい性格をしており、社内でも人気があった。
咲紀とは仲が良く、プライベートでも一緒に出掛けるような間柄でもある。
愛美も咲紀の変貌ぶりに驚くしかなかったが、すぐに理由を訊いた。
「咲紀どうしたの、それ?」
「……ものもらいよ」
心配する愛美に、咲紀は冷静に答える。
だが、愛美はその言葉を信じなかった。
なぜなら、咲紀が嘘をつく時は視線を外す癖があるからだ。
それを見逃さなかった愛美だが、あえて詳しく聞かなかった。咲紀が自分のことで心配かけたくないと感じたからだ。
咲紀は、ものもらいと言ったが、概ね一週間程度で治るにも関わらず、二週間経っても一ヶ月経っても眼帯を外すことは無かった。明らかにおかしいが、顔という最も美醜を評価する重要な箇所であるだけに誰もが理由を聞くことができなかった。
ただ、眼帯はともかくとして咲紀の表情はいつもよりも明るく、充実した業務をこなしていた。それがいつまでも続くと思われた後に、咲紀は会社を休みがちになった。
出社した時に見た彼女の姿は魂を失った様であり、涙を流している姿を目撃したのを見た者もいた。
耐えきれなくなった愛美は、親友として改めて事情を訊いた。
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