古書のコショコショ堂

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 駅に着いて、絶句した。今日から冬服なのを、忘れていたのである。  ホームに立つ生徒たちは、皆濃紺のブレザーを着ていた。なのに、私だけ夏服の半袖スタイルなのだった。  急に空気がひんやりしてきた。袖から半分露出した腕を、じっと握りしめる。  全員冬服の中、私だけが夏服なんて。目立つ、目立ちすぎる。考えただけで、無理だ。今日の私のメンタルは、こんなこと耐えられそうにない。  だから、高校の最寄駅に着いても、降りなかった。そのまま終点まで乗ってしまった。 「車内の点検をしますので、降りて下さーい」  車掌がまわってきた。え、終点ってそういうシステム。しぶしぶ電車を降りる。  終点のこの駅で降りるのは、初めてだった。乗客の姿は、少なすぎてあっという間に姿を消してしまう。何だかゴーストタウンにやって来たみたいだ。落ち着かない。 「ピッ」  ICカードの許可が下りたので、安心してその駅を出た。    駅舎を出ると、ふっと湿った風が私を包み、すり抜けていった。呼吸するごとに風の湿度が、体の中にしみわたっていく。  ああ、そうか。この町には川があるんだ。  と、気づく。視界を横断する川は、どこまでも穏やかに流れていた。がらくたみたいな町の向こうがわ、影法師のような山に向かって。
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