Prologue

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Prologue

「ご乗車のお客様にお伝え致します。この列車は人身事故の為、急停止致しました。安全が確認出来次第発車致します。お急ぎのところ申し訳ありませんが、しばらくお待ち頂きます様お願い致します」 紀伊國屋へ本を買いに行った帰りだった。いつもどおりに地下鉄に乗って帰宅しようとしていた。電車に乗っている時間は長くはないのでドアの近くで立っていた。 人身事故か…。安全が確認出来次第って、5分10分ではないよね。こうなるんだったら、椅子に座っていれば良かった。 3月下旬の水無瀬市の日曜は程良い気温だ。電車の中は暑くもなく寒くもなく。地下鉄だから当然窓は開いておらず、換気は今ひとつ出来ず、空気が篭っている。それ程混んでおらず、近くに香水やポマードの臭いを放つ人がいなかったのは運が良かったのだろう。私は電車の乗客の臭いで貧血を起こした事がある。 地下鉄が線路の途中で止まっていてもWi-Fiが使えるのはありがたい。やる事もなくスマホを弄ってニュースアプリを見ていた。視線を感じて顔を上げると、見覚えのある顔と目が合った───(はな)だ。
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