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「なに、下向いてんの?」
そう言われてハッとして、顔をあげた。こんがり日焼けした細い手足、女子が羨むような小さな顔。私よりずっと背の高いアイツが、いつも渡る橋の途中で待っていた。
「んー、なんかね。疲れちゃって。地元に帰ってきたんだ」
十年ぶりに会うのに『久しぶり』とか『元気にしてた?』とか、そんな言葉はいらなくて。自然とあの頃の自分に戻っていた。
「そっかぁ。じゃあ、さ。これから、水族館に行かない?」
突拍子もないことを言うのは、子どもの頃から変わっていないな。思わず噴き出してしまった。
「そうそう。その笑顔がいいよ」
そう言って笑顔を見せたアイツは、私の手を取ると、歩き始めた。
「オレ、水族館で働いているんだ。あの子たちを見ると癒されるよ」
今日、十年前の約束とも呼べない約束通り、この橋に来た理由を聞きたかったけれど、繋いだ手の温もりを感じると、聞かなくてもいい気がした。
「ありがとう」
それだけ伝えると、ぎゅっと手を握った。
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