右か左か

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右か左か

 ベルの言った通り、しばらく進むとところどころ天井に窓のように穴が開いており、篝瓶(かがりびん)は必要ない程度に明かりが入ってきていた。  正確な場所は分からないが、人が普段は通らない森や手つかずの草原の下を歩いているようだった。時折外から鳥や猿の鳴き声が聞こえた。 「なぁ、本当に家ぐらいでかい生き物がいることってあんのか?おとぎ話とか冒険物語にあるみたいにさ。」 篝瓶を使う必要がなくなり、シュートの声は少し安心したような響きだ。 「私も実際に見たことはないけど、ばあさまや塊の仲間からは聞いたことがあるわ。森の中の湖だか川辺で巨大な蟹を見かけたって。荷馬車三つ分くらいの大きさだったって。慌てて逃げたそうよ。」 蟹と聞くとあまり怖いイメージではないが、そのサイズだとさすがに敵わなそうだ。  でも、上手く倒せたら蟹食べ放題だ。 「恐らくそんなにおいしくないぞ。」 ミックの顔を見ながらラズがため息混じりに言った。なぜばれた。 「歩けなくはないが、入り口の水車小屋と床のレンガを見る限り、ずっと使われていなかったようだな。」 ラズはボロボロになっているレンガの破片を軽く蹴飛ばした。よく見ると壁もひびが入っている。  夜は念の為見張りを立てていたが、何事もなく五日間歩き、このまま順調に行けば目的地のマルビナに今日中につくというところまで来た。結果的にこの使者の道を使って良かったのではないかと、野外料理では何が好きかについてシュートと話しながらミックは思った。  シュートは会話をしながらも掌で氷の塊を作り続けていた。直径十センチメートル程度の氷なら眉間にシワを寄せるほど力まなくても作れるようになっていた。できた氷を投げてみると氷玉が当たったところを中心に周囲一メートルほどを凍らせた。敵の足元に投げれば動きを止められそうだ。  話に夢中になっていたミックはすぐ前を歩いていたラズが立ち止まったのに気付かずぶつかった。 「うわっ、ごめん!どうしたの?」 道が二股にわかれていた。  ディルが例の石が入った巾着を取り出し方向を確認したところ、右側の道の方向を指していた。しかし、右の道は下り坂だ。ミックが覗き込んでみると左の道は起伏がなさそうだが、明かり取りの窓が見える範囲にはなかった。どちらに進むべきか、判断が難しい。 「ベル、祖母から何か聞いていないのか?」 ベルはラズに首を振った。手がかりなしだ。一行が立ち往生していると、カタカタカタ、とレンガのかけらが鳴り出した。地面が微かに揺れている。揺れは段々と酷くなってきて、立っているのもやっとだった。壁のひびがピシっと音を立てて広がり出した。 ひびが天井まで達した時、ガラガラと大きな音を立てて崩れだした。 「逃げろ!!」 ディルの叫び声で全員が二股に分かれている通路へ走り出した。ベルとディルが右側の通路に行くのが見えた。クリフは右側の通路に手綱を持つミックを引っ張るように走ってくれていたが、共倒れになるといけないと思い、ミックは手綱を手放した。 ミックのスピードでは、もう瓦礫に阻まれて追えない。やむを得ず左側に駆け込んだ。 後ろを振り返ったが、土煙で何も見えなかった。  もくもくと上がった土煙がようやく少し落ち着いてきた時、ミックは倒れている人影を見つけた。
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