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ホテル
ホテルの室内は静かで快適だった。値段の割に内装も下品でなく落ち着いている。もっとも最近の若い男女には、こうした雰囲気が合うのかもしれない。
上着をクロゼットに収い、綺麗に整えられたベッドに腰を下ろした。スプリングが強すぎるが、こんなものだろう。どうせ長居はしないのだ。
こういうホテルの常として窓は塞がれている。日中だというのに薄暗い室内は、しかし妙に心を落ち着かせた。
そのまま横たわり、ぼんやりと天井を眺める。そこだけ深い闇が、お前はいけない事をしているんだぞと責めたてて来るようだった。
「悪い事なら、さんざんして来たさ」
口の中だけで言って苦笑した所で、ドアがノックされた。思ったよりも早いお出ましだった。受付は「少しお待たせするかもしれません」と言っていたのだ。
軽く息をついて身体を起こし、ドアまで歩いた。ドアの前に立った時もう一度、軽くノックの音がした。
ドアを開けると、眩しいような白いノースリーブのワンピースの女が立っていた。すっと胸元に伸びる襟からの鋭角なラインの間に、白い肌と高価そうなダイヤをあしらったネックレスが眼に飛び込んできた。
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