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視線は正面から受け止めた。こんなに近くで美香の顔を見つめられる立場には無かったのだ。怒りを忍ばせたその表情は、震えがくる程美しかった。その顔が見たかったのだ。間宮には決して見せる事が無かったであろう、その顔を。
「……分かりました。お金はお返しします」
「いいさ。ご足労願う足代だと思ってくれ。元より、俺の金じゃない」
クロゼットへ行き上着を出した。背後で、美香が立ち上がりバスルームへ戻る気配があった。
残りのビールを飲みながら待っていると、身支度をした美香が出てきた。胸元にやはり、あのネックレスが輝いている。当時は高価なものだと思ったものだ。学生でこれを買えるのかと、間宮の境遇を羨ましくも思った。何故、婚約破棄した男の贈り物を今も後生大事に身に着けているのか。まるで自分を護る御守かのように。
「お待たせしました」
美香はこの一室に入ってきた時の愛想のよい表情と正反対の、厳しい表情だった。
「行きましょう」
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