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「婚約破棄をされたのはあたしです。お父様に言われて、あたしから破棄した事にしました。賢一さんの為に、間宮家の為にはそれが一番良いと仰って」
思いがけない言葉が返ってきた。それは、間宮老人からも聞いていない話だった。美香は続けた。
「あたしは棄て子でした。赤ちゃんの時に、駅に棄てられていたそうです。幼い頃に、子供の無かった麻生の家に引き取られたと知ったのも、最近の事でした」
興信所の仕事は――もっとも、今回は独自に調べている私事だが――大抵の場合、探す相手の戸籍まで調べはしない。棄て子なら、本籍は役所の番地になっている筈だ。
「お父様は血筋を気にされて、それを穢すような事が無いよう、あたしの身元を調べられたそうです。それで、生まれのよく分からない女を迎える訳にはいかない、と」
あまり聞いていたい話ではなかった。
「麻生の両親にはとても大切に育ててもらいました。本当の子供のように。大学にも行かせてもらって。でも、それでもあたしはずっと、どこかで今の幸せが続かないような気がして不安だった。ずっと。こんな日が来るだろうなって」
「もういい」
言葉を遮った。じきに初台だ。
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