別れ

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別れ

 学生時代の美香は輝いていた。ゼミの華だった。間宮の恋人として、申し分ない女性に思えた。人の陰で生きて行くしかない人間には、思えなかった。 「ぼくは送り届けるまでが役目でね。あとは直接、本人と話してくれ。それを聴く仕事までは、請けてない」  美香は、頬の涙を細い指先で拭い、小さく頷いた。 「大変なお仕事なんですね」  そう言った美香の声は冷たく、刃物のように心のどこかを抉った。やはり抱いておくべきだった。いや、かえって後悔しただろうか。  間宮邸のそばで車を停めさせた。美香には見慣れた風景の筈だ。  間宮が死んだ今、父親は美香に詫びるのだろうか。美香は婚約破棄された事を許すのだろうか。許さないだろうか。間宮の死の罪は、どちらにあるのか。  だがそれは、自分には関係ない事だった。やはり自分は、この人々の人生の、背景の一部に過ぎなかった。  スライドドアが開く。雨はほぼ止んでいた。 無駄のない綺麗な身のこなしで、美香が外へ出た。髪が少し下りて、頬の辺りを隠した。髪を耳にかけ、ネックレスにそっと触れた。 「最後に、」  美香が言った。
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