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馴れた口ぶりだった。歩み寄ってきた『みすず』に金を差し出すと、軽く会釈して受け取り、丁寧に畳んでバッグに収った。長材布もろくに入らないだろう小さなバッグだが、高級ブランドのものだ。化粧品とスマートフォン以外に必要なものなど、仕事中は無いのだろう。
「九十分コースでしたよね。オプションはつけなくてよろしかったですか?」
「いいよ。ごちゃごちゃした事は好きじゃないんだ」
『みすず』がくすりと笑った。
「ごちゃごちゃ、だなんて」
「そういうのが愉しい歳でもない」
『みすず』はごく自然に、ソファの傍らに腰を下ろし、少し身体を預けるように近づけてきた。また、甘い香水がふっと香った。
「遊び馴れてる、って事かしら」
やはりあのネックレスだった。信じたくない気分が勝ちそうだった。
「風呂は先に入っていいよ。暑かったろ」
「あ、一緒じゃなくていいんですか」
手でバスルームを示した。
「こう見えて、シャイなんだよ」
含むようにして『みすず』は微笑んだ。
ソファから先に立ち上がって、ベッドにもう一度腰かけた。スプリングが気になった。
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