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「じゃあ、スマホ、一旦お預かりしてもいいですか?」
『みすず』が言った。そういう決まりなのだろう。
「いいよ」ポケットからスマートフォンを取り出して放り投げると、羽毛布団の上で軽くバウンドした。
「それじゃ、先に頂きます」
立ちあがった『みすず』はスマートフォンを恭しく胸元に持ったまま、バスルームに入っていった。ほどなく、シャワーの水音が聞こえてきた。
またベッドに横たわり、天井を見た。今度は何も見えなかった。端の方に染みのようなものがあるのに気づいた。
どうでもよくなって来ていた。何を証明するつもりだったのか。何を明らかにする気でいたのだろう。信じたくなかっただけかもしれない。
水音を聴きながら眠ってしまいそうだった。起きた時には居なくなってくれていればいい。だがすぐに音は止み、ドアが開く音がした。見ると、バスタオルを身体に巻きつけた『みすず』が少し怪訝な表情でこちらを見ていた。
「すみません、急いだんですけど」
「もっとゆっくり入ってくれても良かったんだぜ。何か飲む?」
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