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ビール
立ち上がり、据え付けの小さな冷蔵庫を開けた。今時珍しく瓶ビールが入っていた。栓を開け、サイドボードにあったグラスを二つ手にとってソファに座ると、『みすず』も続くように腰を下ろした。
グラスを差し向けると小さく頷いて受け取った。グラスを傾けて注がれるのを待つ。水商売の女を相手にしているような気分になった。自分のグラスにも注いで、「乾杯」とグラスをぶつけた。安っぽい乾いた音がした。飲んでみたが、冷えすぎて美味いとは思えなかった。
「あの」
『みすず』はグラスを手に持ったまま、訊いた。
「どうして、あたしを指名してくださったんですか。あんなに若くて可愛い子が沢山いるお店なのに。どうして?」
「俺からすれば、君は十分綺麗だよ」
「嘘。お店のサイトじゃ分からないでしょ、顔にモザイクはかけてあるし、画像も多くなくて。いつでもお茶引いてるんです」
「お茶を引く」などという古風な表現を、今もこの業界は使うものなのかと思いながら、もう一度『みすず』の顔をまじまじと見た。
美しく整った顔だった。華やかで、涼やかで、誰かを裏切るような、そんな女性には見えなかった。
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