お石様

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 ある日、巨大な石が空から降ってきた。石は言葉を発した。我々は石を〝お石様〟と呼んだ。お石様によると、他にも仲間がいるが、皆、場所を選んでおいでになっているのだという。  お石様は我々に様々なことを教え授けた。いずれ、新しい生活をもたらす人々がやって来ることを告げ、我々はそれを受け入れた。さまざまな技術により、食料の生産力は上がった。しかし、彼らはお石様と会話をすることができず、婚姻によってその力を得ることができたが、集団としてはお石様と会話をする力が衰えた。それでも、我々はお石様を慕い、この地を穏やかで豊かなものとして、お石様に喜んでもらおうとした。  さらに時は経ち、お石様は各地に散らばるお石様たちとともにある試みを始めると告げた。その頃には、お石様のほかのお石様がどこにいるのかもわかり、その地には必ず、最初に移り住んできた人々のかつての仲間も住まわっていることがわかった。  我々は決して出ることのなかった土地を出て、新しい主君に仕えるために中央にも出て行った。しかししばらくして、お石様は主君の滅亡を予言した。試みは失敗に終わったのだという。  主君の滅亡とともに起こった戦乱がこの地を荒廃させた。そして、最初に移り住んできた人々をこの地に追いやった者たちが我々を襲い、固い結束を誇っていた一族も散り散りとなった。やがて、祭祀が無意味なものとされるに従って、お石様と会話をできる人間も次第になくなっていった。  お石様に寿命があるのか、それともお石様と会話ができる人間がいなくなっただけなのか……。今も、お石様たちは日本の各地で静かにたたずんでいる。
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