再会の時

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 「もはやこれまでか……」  「……無念でございます」  我々は間違っていたのであろうか。  確かに、我らが主君は、この政権を打ち立てるまでに多くの人間を殺めてきた。しかし、我々は知っている。ーーそこに私心はなかった。  はるか昔に、我が一族は許しがたい仕打ちを受け、先祖が築きあげてきたすべてを奪われた。逃げ延びて来た土地で、我々は周囲との交流を避けて暮らしてきた。一国は、豊かで穏やかな地となり、やはり様々な事情でこの地に移った人々と友好を保ち、やがてみな〝家族〟となった。  それから何世代が移り変わったであろうか。ある日、〝主君〟となるあなた方がやって来た。他所からの人間に心許すことのない我が一族が唯一心を許し、政権を握った主君のために、一族の者たちの中からそれを支えに行く者たちを中央へと出した。ーー土地を出てはならない、その掟を破ってまで主君を支えようというのは、平和を願い、弱者を救い、公正公平たろうとして、誰よりも自らに厳しくあった主君の目指した理想の世を信じたからであった。  我が一族には秘密があった。空から飛来する〝お石様〟と会話ができることであった。古今東西の書を蒐集し、世界の真実を探究をしてきた主君は、我が一族の秘密も知っていた。その力を理想の世を作るために貸してほしいと願ったのだった。  お石様は、今回の主君の滅亡を我々に語っていた。主君はそれを受け入れてもいた。お石様の予言は絶対であったが、我々は一族をあげて何とか手を尽くした。しかしながらやはり、その運命を逃れることはできなかった。  お石様はそれ以外のことも語っていた。  「……まだ、早かったようだ。人間の多くはまだまだ学習が必要だ。お前たちの主君は滅びるが、復活を遂げる。その時まで、お前たち一族は決して滅びることなく、彼らを迎えるのだ」  「それは、お石様が我々に時々お見せになる、想像もつかないような先の先の世なのでは……」  「そうだ。いずれ、肉体などなくとも意思のみで世にはたらきかけることのできる物の具が生み出される。その時を待つのだ」  「……その時、我々はそれが主君だとわかるのでしょうか」  お石様は答えなかった。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー  この古い神社のご神体は、巨大な石だ。  石による祭祀とはいったい何なのだろうか。日本全国に散らばる巨大な石。宇宙船だというスピリチュアル界隈の人間もいる。ーーアホくさい。とはいえ、私もTVドラマや漫画でこのところ主役になった氏族が気になり、また、それを支えた不思議な一族がいるというのに興味を持ってここまでやって来たのだと思い出し、苦笑した。  その晩、私は高熱を出して寝込んだ。世界を混乱に陥れているあのウィルスではないかと恐れたが、朝、目が覚めたらいつも通りであった。いや、むしろ体が軽く、頭もスッキリしている。  なぜか、巨大な石のあるあの社にもう一度行かねばならない気がした。石を前にして、蝉の鳴き声以外の音が消え、木々の揺らぎ以外の動きがすべて止まった。  「私の声が届く者もほとんどいなくなった。お前たちの時間で七百年前の答えを今、教えよう。……機は熟した」
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