炭酸水がふたピリリ

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炭酸水がふたピリリ

 篠原も寝床で考えていた。  何があるんだろうな?  言いづらいことか。  天井をみつめ、そのむこうの夜空のむこう、そこにはこう云うキモチの大正解が星としてあったりはしないか、などと空想にふけって、いいのにな、と、自分の答えを胸にすえて眠ったら良い夢みた夜だった。  翌朝。 「あんたね、電気もったいないデショ?」 「さーせん、おかん」  水野は朝餉の席で母に叱られた。  今それどころじゃなくて、本能に従うならキー! てもんなんだけど、もう思春期のかんしゃく起こす元気もなくて弁当片手にいつもどおり学校行った。 「ミーズノ」 「シノ」 「どうだ?」  何を訊かれているかはすぐわかる。  水野の目が泳ぐのを察知して、篠原は違う話題をふった。  なにを悩んでやがんのかね、年中お祭り男が。  みんなだって、水野が元気ないの、つまんねー、て、ボヤいてる。  席順で斜め前のほうに居る小さな頭を、篠原は机に頬杖ついてながめた。  すすけた背中してんなァ。 「シノハラ。さてこれは?」  男性教諭の野太い声が隙を突くように発せられるも、篠原はよどみなく立って質問にすらすら答えた。  それが篠原だった。  なんてよくとおる声。  女子生徒がいくらかときめいている心臓の音も聞こえるよう。  同性の友達ならずっと一緒に居られる、て、ヘテロだから素敵なんだよな。  いつものように親友をふりかえられないこの複雑な胸の内。  嗚呼。  休み時間にも、水野は友達とはしゃげなかった。 「便秘かミズノ! コントレックスでも飲めェ!」  悪友が体当たりしてきた。  ぼんやりしすぎててまともにくらった水野は派手にこける。  でも。 「おい!」  篠原がやさしく抱きとめてくれた。  悪友も舌をだしてあやまる。  周囲がイイ感じにざわめく。  そう云う学園の青春なラブ。  腕のたくましさにときめく。  抱かれている胸のあたたかさは、これっきりかも、と、水野をせつない気持ちにさせた。  もう言っちまおうかな。  その日の放課後には水野の心は決まっていた。 「ミズノ、帰るぞ」 「ん、ああ」  何ぼさっとしてんだかな、と、篠原は水野の頭をぺんぺんたたく。  いいじゃん。  なんかぶすっくれる水野はいつもよりかわいかった。  学校を出て、街並みをひやかして歩いて、空がひらけた。  いつもの河川敷。  広く水の香り、石投げて水切りしている誰かが居る。  カッコいいロードバイクが二台ほど走り去っていく。  犬の散歩しているヒトや、向こう岸建物のあいだを行く電車。  水野は篠原と、土手をくだり河辺に並んで立った。  篠原は何も言わない。  うすい唇をとじて夕日を見る横顔がなんてハンサムなんだろう。  これがなんで親友なんだろう。  水野は呼吸を整え、同じように夕日をまっすぐみつめた。 「言いたくなったから、言う」  太陽さんにすらもカムアウトしたい気分。 「ああ。聴く」
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