炭酸水がひとピリリ

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炭酸水がひとピリリ

 嗚呼、ゆうひ。  青春の色。  夕日。  橙色に辺りが染まる。  今日が終わる。  この世のはてからふいてくる風は綺麗で、それで肺を満たすと今だけは何も怖くない。  河川敷にて立っていた制服の少年の髪がゆれた。  うすくニキビの跡のあるおでこがあらわになる。  大きく吐いた息は他人にも見えるかもしれない。  あのあれ、漫画の吹き出しみたいに。  しかし見えんでいい。  憂鬱なぞ。  酸素がうすいように感じていた。  空気の底ですらこう、て、そうか、真空まで浮上しちゃえば、この胸はいっそ破裂してくれてもっとラクなのかな?  この世のはては、宇宙のどのへんにあるのかな?  大気圏内、ここも宇宙とひと続きの場において、はてを思うとなんて自分はちっぽけなのか。  宇宙は無限で、太陽系なんかこの宙域の田舎。  広大な空間は感情を持っているか?  ふ。  俺なんかちっちゃいけどよ、ヒトを愛せるんだぜ感情があるんだぜ、どうだうらやましかろう、なァ。  でも。  強がりましたサーセン。  涙がでちゃうよ、おとこのこだもん。  そんなふうに、水野(ミズノ)は物思いにふけっていた。  遠い目と横顔の親友に、篠原(シノハラ)が声をかける。 「ミズノ?」  怪訝な顔を相方に見せた。 「なんかあったか?」 「あったけど」  水野は唇をきゅうとしめる。  篠原と目があわせられない。  なんだろう後ろめたい。  大好きなのに。  そうじゃないからか。  篠原は水野の惑いを読み、視線をそらしてそっと言った。 「言いたくなったら言えな。言えることならな」 「サンキュ」  現代社会とか差別とか性別とか、そんな諸々を水野は夜の風呂の中で考えた。  自分がこうなのは中坊くらいで知った。  女子より男子を見てたほうがときめく、とか。  女性教諭より男性教諭にほめられたほうが嬉しい、とか。  男子向けお洒落雑誌を見ても、モデルが、これ好みだな、これはなんだかな、とか自分の抱く感想を他の男子は持ってない、とか。  そう云うこまかいコツコツ違和感のつみかさねに、あ! と、いつか気づいてかくしてきて高校二年生になった。  んで先日とどめがあった。  かなうわけのない恋だとわかっていながら好きで、でももしかしたら、なんて思春期のあわい期待がみごと砕かれたできごとだった。 「ゲンジツはこんなもんよにゃ」  腹立ちまぎれに、いつもより泡立ちよくごっしごっしと全身を洗った。  さっぱりした。  でも心はしなかった。  風呂出て宿題、寝床に転がってパラパラ雑誌見て、時計を見ると十時ちょっと前だった。  昨日までなら篠原とのLINEのシメのあたりなはず。  どこまで気ィきかしてくれる良い男かしら?  歯磨きしてもっかい寝床ごろり、こんな悶々とする夜がはや一週間なことに気づいた。  今夜、ついにLINEすらしなかったことで胸がちくちくと、これで親友までなくしたらやだなー、なんてお悩みのまま電気消さないで寝落ちた。  いっぽう。
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