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こんな時に限ってハンカチが見当たらない。ティッシュもない。
なんでさっきティッシュ配りのお姉さんからもらわなかったんだろう。キャバクラのティッシュでも、受け取れば良かった。
仕方なく、溢れてくる涙を指で拭う。
拭っても拭っても溢れてくる涙と鼻水。
気合いを入れて作ったメイクが崩壊する。
アイシャドウもマスカラも流れて、きっとパンダ目になっている。
到底、人前に晒せる顔じゃない。
とりあえずトイレに駆け込もう。
そう思った時、目の前にハンカチが差し出された。
「どうぞ」
ハンカチに添えられた低めの男性の声は優しさを感じるものだった。
普段だったら決して受け取らないけど、すがるようにそのハンカチを受け取った。
顔に当てたハンカチからは甘い柔軟剤の香りがする。
ああ、優しい匂い……。
優しい人だな……。
どこの誰か知らないけど、ハンカチを貸してくれる人もいると思ったら心が救われた。
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