推しの速水さん

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「ウエストシネマズ宣伝チャンネルへようこそ! 本日は宣伝部の中島と」 隣の久保田に視線を向ける。 「久保田でご紹介しま―す!」 久保田がカメラの前でにっこりと微笑む。 「ところで中島さん、その恰好はどうされたんですか?」 台本の台詞を久保田がわざとらしい表情で口にする。 「似合うでしょ。今日はアイドルになってみたわ。うふっ♡」 カメラに向かってウィンクしながら、台本を書いたやつを後でボコボコにしてやろうと誓う。 「アイドルだったんですか。という事は今回紹介する作品にアイドルが出てくるんですか?」 「アイドルは出てきません」 久保田が大げさにコケる。 スタッフから笑い声が聞こえてくる。 「じゃあ、何が出てくるんですか?」 「『推し』が出てきます。今回紹介する作品は『推しの速水さん』です。内気だけど、行動力のある女子大生、内田美樹が密かに追いかける『推し』は速水さんというイケメン編集者で、週に一度図書館に通う速水さんをこっそり見守る事が美樹ちゃんの生きがいなの」 「変なヒロインですね。ちょっとストーカー入っていますね」 「それで、こっそり見守っていた速水さんと、ある日、美樹ちゃんは関わる事になってしまうの」 「速水さんは美樹ちゃんにこっそり観察されているのを知っているんですか?」 「知りません。美樹ちゃんの推し活(速水さんをひそかに見守る活動)は、速水さんには内緒なの」 「速水さんには秘密なんですか。ところで、美樹ちゃんはなんで速水さんと関わる事になったんですか?」 「実は美樹ちゃん、ネット小説を書いていて、美樹ちゃんの小説が速水さんの目に留まるの」 「なるほど。それで美樹ちゃんと速水さんが恋愛関係になっていくというお話になるんですか?」 「そうなの。数々の試練を乗り越えて、2人の距離が縮まっていくの。胸キュンいっぱいのラブコメよ」 「『推しの速水さん』よろしくお願いいたします!」 最後の台詞を久保田と声を揃えて言うと、「カット」という声がかかった。 本番が終わり、ほっとしていると、「お疲れ様」という拓海さんの声がして、ドキッとした。 拓海さん、今日は出張だったはず……。 なぜいるの? ―――――――――――――――――――― 「推しの速水さん」 https://estar.jp/novels/26149070
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