ハンカチ

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ロビーには劇場スタッフしかいない。 チケット売り場前も、自販機前も、エレベーター前も見たけど誰もいない。だけど、エレベーターが下降している。ここは3階。すぐ1階に着いてしまう。 急いで脇の階段を駆け下りて、エレベーターホールまで行った。 既にエレベーターは一階に到着していた。開いていた扉がゆっくり閉まる。閉まる直前で扉の所に手をかけて中を見る。――誰もいない。 あの人は、どこ? ビルの外に出て行き交う人々を見る。ここは繁華街で深夜でも人通りが多い。 駅方面に向かって歩く、紺色のスーツ姿の背中を見つける。 きっとあの人! 「あ、あの!」 長身の背中に声をかけると、スーツの人が立ち止まった。 「ハンカチありがとうございました。お借りしたハンカチ、洗ってお返ししたいので、連絡先教えていただけますか?」 私の言葉にゆっくりと男の人が振り返る。 煌々とした街灯に照らされた端正な顔立ちは見覚えがあった。 「雨宮(あめみや)課長」 思わず名前を呼ぶと、メタルフレームの奥の瞳が揺れた。
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