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深夜のファミレスで
ハリウッド映画のようなメジャー作品から芸術系のマイナー作品までを幅広く手掛ける大手の映画配給会社【株式会社ウエストシネマズ】。
本社は東京の日比谷公園近くのオフィスビルに入り、雨宮課長は総務部所属。宣伝部に所属する私も社内の試写会イベントの開催や、書類の手続きで何度かお世話になり、顔を合わせれば挨拶程度はする。
まさか社外で、雨宮課長と遭遇するとは思わなかった。
なんなのもう! 今日は厄日なの? なんでこう次から次へとピンチになるのよ。
会社の人に弱っている姿は絶対に見せたくない。中島奈々子は映画館で一人、しくしくと泣くようなキャラじゃない。
上司にだって自分の意見をハッキリと言う宣伝部のエースとして頼られている。中島は女じゃない。男だ。とまで言われるけど、それぐらい強く見せないと宣伝部ではやっていけない。
雨宮課長は部署の違う上司だけど、弱く見られたくない。今まで会社で築いて来たイメージが壊れるような事があってはならない。
なのに、ガッツリ泣いていた所を見られてしまった。
なんと言って映画館での事を誤魔化そう。
「中島さん、立ち話もなんだから、コーヒーでも飲まない?」
「こ、コーヒーですか」
「ダメかな?」
一歩近づいた雨宮課長が伺うように私を見る。
泣いた顔を見られるのが恥ずかしくて、雨宮課長から顔を背けた。
「いいですよ」
帰れば中島奈々子が映画館で泣いていたという噂話が会社に広まるかもしれない。それだけは絶対に避けたい。
「行きましょう」
顔が見られないように課長の前を歩こうとした時、人とぶつかりそうになる。
「危ない」と言って、雨宮課長が私の腕を掴んで引き寄せる。爽やかな甘い香りが鼻を掠めた。雨宮課長の匂いだ。
「ちゃんと前を見た方がいいよ」
「す、すみません」
掴まれている左腕が熱い。頬に熱が集まる。
ちょっと腕を掴まれただけで何、動揺しているの、私?
「どうしました?」
メタルフレーム越しの瞳がこっちを向く。
正面から視線が合った瞬間、心臓がトクンと脈打った。
やば。
弱っている時に見る雨宮課長、胸にキュンとくる。
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