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(一)
「貴様、何者だ」
白いバスローブを羽織った老人は腹を押さえつつ、壁際までヨロヨロと後退しながら俺に向かってそう言った。
その腹には俺が突き刺した包丁が刺さったままになっていた。そして白いバスローブには包丁の刺さったところから赤い染みが広がりつつあった。
「財部社長、いや宮崎社長。金庫はどこだ。通帳も出してもらおう」
俺の背後にいる男が言った。
「国分か……。貴様、出てきたのか」
国分は俺の脇から前に出て老人の前に出た。そして老人の顔をぶん殴った。
「ああ、おかげさまでね。長かったよ。お前のおかげで十五年もおつとめさせられたよ」
そう言って、国分は床に倒れた老人にツバをはきかけた。
「さあ、どこだ! 通帳を出せ!」
国分はそう言いながら老人の腹を蹴った。
刺さったままの包丁には当たらなかったが、老人は苦痛で声を上げた。
(続く)
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