(四)

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 その状態でも数度刺して抜いた。  気がつくと、俺の右手には国分の血が手首と肘の中間くらいまでべっとりとついていた。いつの間にか包丁の柄は血でぬるぬるになっていた。そしてその血を見たときに、俺は手を滑らせて包丁を床に落とした。  そう高いところから落ちたわけではなかったが、金属音が部屋に響いた。  その音で、俺はハッと気がついた。床には国分の死体が血の池に仰向けに横たわっていた。さらに別の壁際には白いローブの半分を真っ赤に染めた、かつて宮崎姓を名乗っていた財部という名の老人も肉塊と化していた。  そして俺は、ふっと鼻についた部屋の中の生臭い臭いに気持ちが悪くなり、全てをそのままにして部屋からゆっくりと立ち去った。 (了)
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