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外伝2-2.獅子のぬいぐるみはダメ
久しぶりに家族で街に出る。小さな子はすぐに行方不明になるから、ナサリオはギータに預けた。抱き上げて運ぶので、いなくなる心配がない。最近歩くことが楽しいアナベルと左手を繋ぎ、右腕をギータに絡めた。これで全員繋がってるわ。
「僕らは別の日にする」
アデライダの体調が不安定なので、心配したリカラはそう口にした。食事もあまり進まない様子だから、果物でも買ってこよう。
「ゆっくり休んでね、お土産を買ってくるわ」
残念そうなフィデルは、お出かけが羨ましいのだろう。いつも一緒に姉弟のように過ごす二人が出掛けるのに、自分は一緒に行けないから。仲間外れになった気分なのよね。視線を合わせるためにギータの腕を離し、膝を突いてフィデルに微笑みかけた。
「フィデルにお願いがあるの。あなたのお母さんを守って欲しい。私達が果物を買って帰ってくるまで、よ」
期限を伝えたら、少し考えてから頷いた。一歳半でも子ども扱いはしない。子どもは大人が思うより賢いし、ちゃんと考えているもの。
「うん、やる」
決意を滲ませたフィデルは、アデライダを守ると拳を握った。父親であるリカラと並んで見送る。
「扱いが上手くなったな」
「三人もいれば、当然よ」
フィデルも含めて、三人育てているも同じ。アデライダがサボってたのではなく、彼女も我が子同様に三人を育ててくれる。お互いの子を区別していないの。
悪いことをしたら私もフィデルを叱るし、良いことをしたら褒める。一緒にご飯を食べさせ、二人で寝かしつけてきた。ギータと腕を組み、神殿を出た。
いつも子どもを遊ばせる花畑の先に、ギータが外への出口を繋ぐ。街の中央に立つ神殿の一室に到着し、扉を開いた。神殿を掃除する人達に感謝の言葉を告げ、正面の大階段から街へ向かう。この大階段は結婚式で、花びらが敷き詰められた。
今でも民の結婚式で、この階段は使われるの。敷き詰めたりしないけど、花びらを上から降らせるのが人気の演出だった。今日は花びらがないから、結婚式はなかったみたいね。
一度荒廃した都は、以前とは違う活気を取り戻した。お金でやり取りせず、お互いに納得する物々交換が主流だ。そのためギスギスしたやり取りはなく、思わぬ格差レートで交換される品もあった。
「アナベルとナサリオの服だったか」
「ええ、そうよ。子どもはすぐに大きくなるから、少し大きめの服を買っておきたいの」
私の服はギータが選んで買ってくる。いつもぴったりサイズなのが複雑だけど、毎晩一緒に寝ていたら分かるのかしら。私はギータの服を選ぶとしても、サイズまで分からないわ。
見つけた店に立ち寄り、寄進すると必死の店主へ野菜で支払った。これなら食べる物だから、多くても困らないでしょう? 神であるギータはともかく、私や子ども達は崇める対象じゃないから、対価を支払わないといけない。頑なにそう主張して、野菜を積み重ねた。
余ったら誰かに分けてもらえばいいわ。満足して頷く私を引き寄せ、ギータが額にキスをする。手を握ったアナベルが、思わぬ発言をした。
「あれが欲しい!」
強請られたのは、店頭に飾られたぬいぐるみ。アナベルの身長より大きな獅子だった。あれ、リカラのイメージかしら。
「隣のにしなさい」
ぴしゃんと変更を申し渡すギータ。隣にドラゴンがいた。気持ちは分かるけど、ふふっ……我慢できなくて笑ってしまった。
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