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外伝1-3.大切な番を得て足りるを知る
ようやく見つけた番、絶対に泣かせたくない。古代竜の仕掛けた魔法で勘違いしたが、解除した途端に理解した。姉じゃなく、妹だ! 僕と生涯を共にする、大切な伴侶。薄茶の髪と瞳の僕に似合いの茶髪は、まるでお揃いみたいだ。空の色を切り取ったような青い瞳も魅力的だった。
ずっと傍にいたいのに引き離された時は、1日がこんなに長いと思わなかった。5年も会えなかったら気が狂う。恥を忍んでお願いしに行こうか。そう迷っていたところに、3年への短縮と条件が示された。それでも3年か……長いと渋れば、仕事をする日は彼女に会えるという。事実上の解除だった。
勝手に連れ帰ったり、巣に閉じ込めることは禁止された。仕方ない。僕が古代竜の神殿に住めばいい。仕事をするんだから、報酬の一部として要求した。意外にもあっさり許可される。
人間は本当に愚かだ。古代竜が眠る土地の上に都を築き、豊かな土地と気候を手に入れた。それで満足すればいいのに、さらなる繁栄を望んで生贄を捧げる。彼はそんなものなくても、眠りながら魔力を餌に精霊を引き寄せるのに。
豊かになり過ぎた国は、最悪の手を打った。古代竜自ら選んだ花嫁を殺そうとしたのだ。腹を槍で突き破り、そのまま落とした。まあ、本人に言わせれば「自分から飛び降りてやった」らしい。迎えに行く前に花嫁を殺され、目覚めた古代竜の怒りは凄まじかった。
まだ神の領域に届かぬ僕でさえ、感じ取れるほど。あの愚行の直後、古代竜は己の使える魔力を一気に放出した。そこに住む人々を直接罰するのではなく、時間を巻き戻したのだ。あの頃の僕は神になれば時間すら操れると感動したが、今は理解できる。あれは特殊能力だった。
何かを代償に差し出し、己の一部を削る邪法。人間の小娘相手に邪法に手を染めるなど……昔の僕ならそう感じただろう。だけど、最愛の番を得た今は違う。僕も同じ方法を取れるなら、命すら削って成したはず。アデライダが笑ってくれるなら、その一瞬のために命も魔力も差し出す覚悟がある。
古代竜とフランシスカの結婚式から2年、ようやく僕はアデライダと結婚できる。あと数日、その時間が愛おしく、同時に憎らしい。興奮しすぎて獅子になったり、慌てて戻ったりする僕をアデライダは笑顔で受け止めた。
フランカの言う「可愛い」は、アデライダのためにある言葉だ。頬ずりして愛を告げ、今日もまた獅子の姿で添い寝をする。そうじゃないと襲ってしまうからな。万が一にも襲ったら、もうアデライダに会えなくなる。釘を刺された僕としては、別に寝ずに襲わない方法として獣神姿を選んだ。
「おいで、リカラ、ペキ」
ここだけが納得できない。獅子が大型の猫に見えるのは諦めるとして、猫と一緒に呼ばれるのはどうなんだ? そして獅子の僕を恐れなくなった茶トラの猫は、欠伸をしながらアデライダの胸元で眠る。くそ、羨ましい。僕だって顔を埋めたいんだ。あと数日だから我慢してるんだぞ。
のそりと腹を見せて横たわれば、アデライダがぺたりと体を寄せる。彼女の胸元の猫はちらりと僕を見て、ふふんと得意げに髭を震わせた。結婚式が終わったら、お前なんかベッドに乗せてやらないんだからな!
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