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外伝1-4.幸せになりなさい
お姉様が用意したピンクのドレスに袖を通す。ひらひらと袖や裾が広がる形は好き。白いレースがあちこちに飾られ、とても綺麗だった。花の模様を模った飾りが光り、頭の上に花冠が載せられる。
「私が編んできたの。今日の主役はアデライダよ」
そう言って笑うお姉様が、美しい首飾りを付けてくれた。これ、素敵。花の飾りが並んだ首飾りは、細い鎖で繋がっている。鏡に映る自分を確かめながら、首飾りに指先で優しく触れた。本物の花みたいに、乱暴な触り方をしたら散ってしまいそう。
「これはギータからよ」
首飾りはギータ陛下が用意してくれて、ドレスと花冠はお姉様。なら、リカラは何をくれるんだろう。そう尋ねたら、お姉様がくすくすと笑って「なんでもくれるわ」と答えた。
お姉様は欲がなくて、神様の花嫁になっても物を欲しがらない。光る綺麗な石や金銀の飾りより、ギータ陛下が摘んだ野の花を好んだ。きっとそう言うことだと思う。私もリカラがくれるなら、道端の石でもいい。それに、この世界は神様の物だから。道端の石でも花でも、神様の一部だよね。
「リカラを好き?」
「うん、大好き。お姉様の次に」
付け足した言葉に、お姉様は眉尻を下げて笑った。変なの。いつもは喜んでくれるのに。
「そのうち、リカラが一番好きになるわ。そうじゃないと困る」
お姉様は変なことを言う。お姉様より好きになる人はいないよ。だって、私を助けて愛してくれた人だから。一番最初に私を好きになった人だもん。
ヴェールという薄い布を被って、お姉様に手を引かれて歩く。結婚式を行うけど、この後も同じように一緒に住んでいいの。でもリカラと家族になったよ、と皆に知らせるお祭りだから、きちんとしなきゃ。
裾を踏まないよう、前は少し短い。横から後ろにかけて長くて、引きずって歩いた。赤い絨毯を歩いて、白い艶のある石の床で止まる。顔を上げたら、数歩先にリカラが立ってる。いつもと違う髪型、ぺたりと撫で付けた薄茶の髪がはらりと落ちた。数本なのに、すごく気になる。
近づいて手を伸ばすけれど、触れる前にリカラに掴まれた。その手にキスをされ、続いてヴェールが持ち上がる。直接見たリカラは、カッコいい。そう思った瞬間、彼の顔が近づいてキスをされた。
今度は手の甲じゃなくて、唇に直接触れる。どうしたらいいか分からなくて、動かずにいたら苦しくなった。息をしようと少し開いたら、ぺろりと舐められる。びっくりして固まった。そんな私をリカラが抱き上げ、花嫁だと宣言する。
緊張する私は、リカラの首に手を回した。いつもと同じ、それがすごく安心する。神殿の階段の前に立つと、2年前の結婚式と似た光景が広がっていた。たくさんの花びらに覆われた階段、集まった街の人達。結婚おめでとうと叫ぶ声に、どきどきしながら手を振った。
お姉様に教わった通り、ちゃんと出来てるかな。リカラが風を起こして花びらを舞いあげ、その中を歩いた。降ってくる花びらが私達の上に注いで、綺麗。リカラの後ろにある神殿を仰ぎ見ると、ギータ陛下と寄り添うお姉様が笑っていた。
「幸せになりなさい、私のアデライダ」
大きく頷いて、リカラの首に顔を埋めた。なぜか涙が止まらない。悲しくなくて嬉しいのに。そんな私にいくつもキスを降らせるリカラは、優しい目をしていた。お姉様達みたいに、ずっと一緒にいたいな。その思いに気付いたみたいで、リカラは唇にもまたキスをくれた。
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