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外伝2-1.騒がしくも平和な日常
元気に走り回る子ども達を追いかけて、花畑に座り込む。疲れちゃったわ。子どもの体力ってどうなってるのかしら。遊んでいるときは元気なのに、突然動かなくなって寝たりするのよね。
自分がこの年齢だった頃の記憶は曖昧なので、余計に不思議だった。まだ追い回す妹に声をかける。
「アデライダ、無理しないでね」
「大丈夫です、お姉様」
白亜の神殿があるギータの領域内は、許可のない者が勝手に入れない。自由に出入りしてるのは、精霊くらいだった。私やアデライダも、それぞれに夫が付き添わなければ外へ出ることはない。神の花嫁は神の力を高めると同時に、弱点にもなるから。
聞かされたのは、アデライダの結婚式の後だった。私達が「やっぱりやめます」って言うことを心配したみたい。おかしくなっちゃうわ。例えば、私が「結婚しません」と口にしたとして、それを許すギータじゃないよね。何を心配していたのやら。
走り回る子ども達が方向転換して、こちらに駆け戻ってきた。走ってきて、手が届く手前で転んだ。先頭の一人が転ぶと、不思議なことに次々と連鎖する。
「うぁ……ああああ! おかぁしゃまぁ!」
転んだ際に鼻をぶつけた娘アナベルが、鼻血を垂らしながら大泣きした。立ち上がって距離を詰め、ハンカチを使って顔を拭いてやる。
「精霊さん、少しハンカチを湿らせてくれる?」
周囲を舞う光が近づいて、ハンカチに触れた。途端にしっとり濡れる。ギータに聞いたのだけど、精霊は神やその家族に親しみを感じるんですって。頼み事も無理じゃない範囲は聞いてくれるとか。確かに掃除や食事の準備など、侍女みたいに動いていた。あれって厚意の現れだったのね。
水の精霊なのだろう。手伝ってくれた精霊の光にお礼を言って、まだ泣く娘の顔を拭く。
今年3歳になったばかり、ギータ譲りの淡い金髪に、私と同じ赤い瞳よ。昔の私は青い瞳だったけど、ギータが時間を巻き戻した際に赤くなった。これは一種の制約で、巻き戻した証拠のようなものね。
「うぁあああ! おね゛えじゃんだけ、ずずぃ」
狡いと泣く弟はまだ1歳。鼻水を垂らして、顔をくしゃくしゃにして訴えた。ナサリオは白に近い銀髪で金瞳だった。私の髪色とギータの目の色を受け継いでいる。
「アナベル、お姉ちゃんだもの。我慢できる?」
「うん」
頷く彼女は、鼻血も止まったらしい。近づいて、弟ナサリオを抱き上げた。鼻水と涙で汚れた顔を、私の服で拭うのよね。いつものことだけど、擽ったい。背中を叩いて落ち着かせ、しゃくりあげるナサリオのために、もう一枚ハンカチを取り出した。
子どもの面倒を見るようになってから、人数分ハンカチを用意してきた。いつだって、泣いて騒ぎを起こすんだもの。
「ままぁ!」
最後に転んだ子は1歳半のフィデルだ。アデライダが産んだ息子で、私の甥に当たる。アデライダもリカラも薄茶の髪だから、フィデルも同じ色を引き継いだ。瞳の色が青だから、これはソシアス家の遺伝ね。
アデライダは求める腕に応じて、すぐに息子フィデルを抱き締めた。全員で花畑に座り込み、休憩する。精霊が用意したお茶を飲み、泣き止んだ子ども達は走り出す相談を始めた。本当に元気ね。
微笑ましく思いながら、勢いよく追いかけっこに駆けていく3人に手を振った。
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