外伝2−3.この幸せが続きますように(最終話)

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外伝2−3.この幸せが続きますように(最終話)

 獅子が欲しいアナベルは譲らず、悩んだ末に私の判断で両方購入した。お支払いは寄進された布よ。とても手触りがいいので、子ども達の寝具に使った残りを譲る。代わりに獅子のぬいぐるみの所有権を獲得した。ドラゴンのぬいぐるみは店主が販売を渋ったけど、最終的に山積みの野菜で交換できた。  随分と高くついてしまったわ。ぬいぐるみは両方とも神殿へ届けてもらう約束をして、店を離れる。当初の目的だった子どもの衣服は揃ったから、次はアデライダの果物ね。ここ数日好んで食べていたのは、オレンジの果実だった。  これから来年の春まで、様々な種類の柑橘が手に入る。迷って、甘い小ぶりな物と酸っぱい物を選んだ。これから、アデライダの体調に合わせて出せる。それに余ったら傷む前に絞ってジュースにしてもいい。お布施込みと言われて、多めに譲ってもらった。  対価にはいくつか提示した中から、店主が小さな宝石を選ぶ。この国で宝石は大した価値はないけど、きらきらして綺麗な石程度の認識だった。他国との貿易には使えるかも知れないわ。着飾ることに意義を見出さなくなった民の間で、宝石は国外との交易用貨幣の感覚で利用される。  私やアデライダが持っている宝飾品は、すべて神である夫が用意した。きっと地中から見つけてきたんでしょうね。加工技術は秀でているようで、他国からの加工依頼も多いと聞いた。 「アディ、元気になる?」  心配そうに尋ねるアナベルの髪を撫で、微笑んで頷く。 「大丈夫よ、あの子は強いわ」  神の花嫁になったんだから、病気に奪われるわけがない。あの子の体調不良はたぶん……いえ、不確定な話はやめよう。ギータの腕の中で、ナサリオは半分眠っていた。揺れる首を肩に凭れさせ、彼は優しい顔で笑う。 「帰りましょうか」 「ええぇ……もっとお出かけ!」  アナベルが声を上げて嫌がる。また今度ねと約束を交わし、私は娘と繋いだ手を揺らす。嬉しそうに動きを合わせるアナベルは、ぴょんと石畳を踊るように飛び跳ねる。同じ色の石だけ踏む、そんな遊びを始めたみたい。子どもって、本当に遊びを見つけるのがうまいわ。  感心しながら私は違う色の石を踏んで歩く。気づいたアナベルが満面の笑みになった。競うように足元を見ながら歩き、神殿の階段を上る。アナベルはまだ難しいようで、時々躓きそうになった。でも手を貸そうとすると断るから、大人の真似がしたいのだと好きにさせる。  転んでケガをしても、何かを学ぶでしょう。心配過ぎて、ギータは手が出そうになるけど……組んだ腕に力を込めて止めさせた。首を横に振る私に苦笑いし、我慢する夫と神殿へ帰る。掃除や参拝に来た人は引き上げたらしく、しんとした廊下を進んで部屋に入った。  光に包まれて、花畑に移動する。以前に理論を聞いたけど、難し過ぎて理解できなかった。いわゆる別空間で次元が違う感じだと認識したけど、それも当たってるか分からない。神に近い強者以外入れない安全な場所なのは確かだった。 「お姉様」  体調が回復したのか、アデライダが手を振る。手を繋いでいた娘が「アディ」と呼んで走り出した。後ろを続く私達は、大切そうにアデライダを抱き締めたリカラから、喜ばしい一報を聞く。 「アデライダに二人目が宿った」  ああ、やっぱりそうだったのね。頬を染めるアデライダとリカラへ「おめでとう」と祝いの言葉を向ける。意味がよく分からない娘アナベルも「おめっと!」と声を張り上げた。また家族が増えるわ。  この先もずっと……ずっと。この幸せが続きますように。妹を抱き締めた私は、祈るように彼女と額を合わせた。 「お姉様、大好きよ」  あなたにそう言ってもらえる私で、よかったわ。私もよ、返す声は震えていた。     THE END. *********************  外伝完結です_( _*´ ꒳ `*)_ここまでお付き合いありがとうございました!  少しだけ次回作の宣伝を…… 【監禁ルートと病んで殺害ルートしかないヤンデレ攻略対象の妻になりました】  異世界ファンタジー系恋愛です。転生かな? 割と強いタイプの主人公になると思います(*ノωノ)
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