最期の顔

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「そんなに絵が好きなら、こうすればいいのか」  クラスメイトである高羽が、近くにあった銀色の額縁を僕に押しつける。  その額縁は飾り気がなく、僕の上半身ぐらいのサイズだ。絵の飾られていない空洞には、四角く切り抜いたような景色がぽっかり浮かんでいる。 「いいか。これをこう持つんだ」  混乱している僕の腕を持ち上げ、高羽が額縁を正面に向ける。額縁の中には、美術室の黒板やデッサンするための石像が見える。収まりきれない景色の一部が、額縁に一周分消されていた。  一体、何がしたいのか分からず、僕は眉間に皺を寄せる。  書きかけのデッサンを今日中に仕上げるつもりで、僕はここにいた。よく分からないことに、時間を費やしている暇はない。  僕が恨めしげな目で高羽を見るのと、高羽が腕を放すのが同時だった。地味な重さに、持ち上げている腕がぷるぷる震え出す。  やっぱり学校なんて、ろくな所じゃない。  僕が内心で臍を噛んでいると、高羽が僕の前に立つ。 「どうだ?」  額縁の向こう側で、高羽が何やら満足そうな顔をする。高校生にしては幼い言動に、僕は半ば呆れかえっていた。 「俺の姿が収まっているか?」  ワケが分からないまま、僕は首をひねる。面倒くさいという気持ちが沸き、額縁を下ろしてしまいたい気すらしていた。 「もう少し後ろかー」  僕の気持ちとは裏腹に、高羽が勝手に数歩後ろに下がる。 「どうだ? 全身が入ったか?」  詰め襟の制服姿が額縁の中に納まる。だけど、上履きの部分が額縁の外だった。僕はあからさまな溜息を吐いてから、調整するように数歩下がる。それから全身が収まると、僕は首を縦に動かす。
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