さいごの足掻き

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 ――これは、自殺した少年が書いた最後の小説だった。全てが事実で構成されたノンフィクションとも呼べる小説。  しかし、小説と呼ぶにはあまりにも稚拙だった。  視点もぐちゃぐちゃで、いたるところで1人称と3人称が切り替わり、起承転結も曖昧だった。何より、自分の感情を赤裸々に吐露した文章でしかないとも言える。  ――人によっては読めたものでもないだろう。  しかし、都度の悲鳴が鮮明で、誰にも聞こえなかった「助けて」の声がこんなにもあるのだと、思い知らされる。 「なんで……私は、気が付かなかったの?」  兄の悲鳴に気づける要素は何度もあった。この小説の会話だって本当に行われた内容なのだ。だから、これが事実だと気が付き、彼女も彼が自殺しようとしていることと自殺する場所も小説の中で描かれたビルなのだと気づく事が出来た。  しかし、結局間に合わなかった。    雨の中、彼女は頽れ涙を枯らす。  彼女は永遠に後悔するだろう。  ――兄の悲鳴に気付いてあげられなかったことを。
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