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8歳の誕生日を迎えたカインは、貴族の嗜みとして剣の稽古が始まり毎日励んでいた。
剣の腕前が将来に関係することもなく、ただ貴族とあればそれくらいできるのが当たり前、そのような常識が確かに存在していた。
もちろん家によって教育の仕方は変わり、危険を伴う剣の稽古をさせない家もある。 しかし、カインは熱心に剣の練習をさせられたものだ。
―――剣の稽古なんて何が面白いんだ?
―――カッコ良いのは形だけだよ。
カインは日々練習に励んではいたが上達が遅く、自分が剣に向いていないことが分かると稽古をすっぽかして逃げ出してしまったのだ。
「待ちなさい、カイン!!」
教育係から声がかかるが止まるはずがなかった。
「わ、私が追いかけます!」
そう言ったのは執事だ。 10年前でまだ若いとはいえ、それでも既に60を超えていてカインには追い付けない。 それはカインが身体の小ささを生かして逃げていたためでもあるだろう。
―――じぃに僕を止めるのは不可能だって!
カインはどんどんと逃げ広い花畑へとやってきた。 ここは休みの日やゆっくりしたい時に時々遊びに来る場所。
とはいえ、あまり整備されておらず野原に近いような場所のためカイン以外で用がなければ近付く者は少ない。
―――・・・あれ、誰かいる?
そのはずだったのだがそこに先客がいたのだ。 ここで人と会うのは初めてだった。
「・・・誰だ?」
「あ!」
貴族とは思えない質素なワンピースを着ている少女が花を摘んでいた。 ここで会うのもそうだし自分と年が近い子と出会い話すのも初めてだった。
「あ、怖がらないで! 僕は何もするつもりはない」
そう言うと逃げようとしていた少女は思い留まった。
「・・・その剣は?」
「剣? あぁ、これは偽物だよ」
腰にかかっている剣を抜いてみせた。 稽古の時に使う偽物で刀身は柔らかい白木でできている。 剣だと思って怯えていた彼女は、それを見て落ち着きを取り戻したようだった。
「最近剣の稽古をしていてさ。 これが厳しいんだよ、指導が」
「稽古・・・。 見てみたい! どうやって剣を振るうの?」
「え? それはこんな風に・・・」
試しに剣を振るってみせた。 少女は目を輝かせている。
「わぁ! 凄くカッコ良い!!」
「え、本当?」
「うん! もっと見せて!!」
自分には才能がないと思っていたが、年齢を考えれば普通だったのだ。 比べる相手が大人となれば技術面で劣っていても不思議ではない。
少女はお世辞を言っているようには思えず、彼女のおかげで剣に自信を持つことができたのは確かだった。 親しくなり互いの自己紹介を済ませた。 名前はエマというらしい。
「エマはどこに住んでいるの?」
「小さな村をいくつか越えた先の街に住んでいるの。 今日は用事があってたまたまここへ来たんだ」
「そっか。 じゃあもう会えなくなるかもしれないのか・・・」
「そうだね。 残念だな、カインとまだまだたくさん話したい。 カインのことをもっと知りたいし時間も共有したい」
「ッ・・・」
その言葉を嬉しく思った。
「そうだ! エマの住んでいる場所を教えてよ!」
「住んでいる場所? 来てくれるの?」
「流石に子供の僕一人では行けない。 でも手紙なら出せる! 一週間おきに文通でもしないか?」
「文通? する!!」
「最初は僕から送るよ。 毎週日曜日に交互に手紙を送る、っていうのはどう?」
「いいね、それ! 凄く楽しみ!!」
そういうことで住所を教えてもらい文通することになったのだ。 この後はエマの親が迎えに来そうだったため見つかる前にカインはその場を後にした。
カインも家へ戻ろうとすると近くに執事がいたことに気付く。 エマと二人でいたところを邪魔せず静かに見守っていたらしい。
「じぃ!」
「お坊ちゃま、あの方は?」
「さっき知り合ったばかりのエマ。 凄く優しくて素直な子なんだ! そのエマと文通することにしたんだ!!」
執事には何でも言えるような仲で隠し事をしたことはない。 それを聞くと執事は嬉しそうに笑った。
「左様でございますか。 お坊ちゃま、とても幸せそうですね」
「うん!! あ、でもお父様たちには秘密にしておいてくれる? 何か言われそうだし」
「かしこまりました」
こうして執事だけが知っている状態になったのだ。 これがエマとの出会いだった。
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