途切れた恋の便り

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カイン視点 「お坊ちゃま、お一人で大丈夫ですか? 年寄りではありますが、少しでもお力になれたらと思うのですが」 馬に跨ったカインを見ながら執事は不安そうに言った。 それも無理はない。 カイン一人で街の外へ出かけたということは今まで一度としてないのだから。 「ありがとう、じぃ。 だが大丈夫だ。 今日中には戻る」 「分かりました・・・。 信じて待っております」 執事もエマは今でも生きていると信じていたためショックが大きいようだった。 現状で共感してくれるのは幼少の頃から全ての事情を知っている執事だけだ。 「じゃあ行ってくる」 深く頭を下げる執事を背にカインは家から飛び出した。 急いでいたため準備もままなっていない。 ただ家からエマからもらった数枚の手紙と簡易な地図、そして少々の路銀は持ってきている。  「馬だと6時間あれば着くくらいか。 迷わずに辿り着けたらいいけどな」 迷うような道ではないが、地図を見ればただ街道を走らせれば着くというわけでもなさそうだ。 いくつか気になるスポットや大変そうな場所もある。 それでもエマの無事を願う一心で馬を走らせ続けること数時間。 まず気になっていた難所に到着した。 「ここの崖、地図で見るよりも危ないな。 もしエマが落ちたら、そんなことを考えるとゾッとするけど、普通は馬車で行くだろうからこんな場所は通らないよな」 そのようなことを考えつつも悪い思考を追い払い先へと急いだ。 山を越える頃には馬も疲弊し、カイン自身にも多少の疲れが溜まっていた。 地図を見て分かっていた通り山を越えた先には大きなセーヌ川が流れ街が発展している。 自分自身は休まず向かいたいという気持ちもあったが、馬はそうもいかない。 ここで無理をさせれば結局余計に時間がかかってしまう可能性があるのだ。 「ここで丁度半分くらいか。 思えば朝食を食べてこなかったな」 パーティで食べると思っていたため朝食を抜いていたのだ。 そして、馬にも食事が必要だと考えた。 「この街で少し休もう。 食糧が売っていないか探そうか」 馬を引き連れながら歩いているとジロジロと街の人に見られた。 ―――・・・きっと僕が貴族だから浮いているんだろう。 ―――あまり嬉しくない状況だ。 ―――エマと同じように貴族も庶民も同じ人間。 ―――どうして差をつける必要があるんだろうか? 歩いていると丁度馬専用の餌を売っている店を見つけた。 果物屋に挟まれていて違和感が凄い。 「ここにある一番高級なものをくれ」 「はい・・・。 あの、もしかして貴族様ですか?」 恐る恐る尋ねてくる店主を怪しんで聞き返した。 「・・・どうしてだ?」 「だとしたらお金はいりません! 貴族様からお金をもらうなど」 「金を払うのは常識だろう。 僕はこの街とは縁も所縁もないし、変に気を遣わなくてもいい」 「しかし・・・」 「値段が一番高いのはこれだな。 これをくれ」 「ありがとうございます・・・」 お金を断る店主に無理矢理お金を渡しこの場を後にした。 あとは適当に自分の分の食糧も買おうとする。 「ここで一番人気な食べ物は何だ?」 街の人に尋ねてみた。 「おぉ! お貴族様! 貴族様の口に合うようなものというと・・・」 「そんなことを気にする必要はない。 街の者の間で評判のあるものを教えてくれ」 「そう言われるのでしたら、そこにあるチキン屋・・・」 そう言われおじいさんが指差す方向を見てみるも何もない。 「そうか、潰れちまったんだっけ」 「人気なのに潰れたのか?」 「店主が急病で亡くなっちまってさ。 今は後継ぎの子供がこの街を出ているみたいだけど、戻ってきたらまた店を再開するらしい」 「へぇ・・・」 「坊ちゃんもまた来てみるといいよ。 貴族様の口に合うのかは分からないけど、質はいいし食ってみて絶対に損はしないから」 「そうだな。 憶えておこう」 「じゃあ二番目に人気な店なんだけど」 人気店を教えてもらいテイクアウトした。 そして大きな噴水の前に腰を下ろす。 「ほら。 荷物になるから全て食うんだぞ」 馬に果物を渡し自分も昼食をとった。 ―――この街は穏やかでいいな。 ―――食べ物も豊富だし住み心地もよさそうだ。 辺りを見回してみる。 ここは広場のようだった。 噴水の周りには大きな花壇があり豊かに花が咲いている。 ―――・・・もしエマが本当に亡くなっていたら。 ―――僕はその事実を受け入れることができるだろうか。 ―――・・・受け入れたくないから自分の目で確かめようと家を飛び出してきたというのに。
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