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「ぜんぜんかまわないんです。それより芳村さんって、ご結婚されてないんですか」 「へ?」  頬を染め、僕の左手薬指に視線を落とす彼女の意図がわからず首をかしげていると。 「だって昨日、わたしにお見合いに行ってほしくないみたいだったので。もしかしたらこういう職場ですし、独身を隠してお仕事されているのかな、なんて思ったりして」  鋭い、と思いつつ、冷や汗がたらりとこめかみを伝った。 「あ、ああ、はい、あ、いえ、はい」  照れたような微笑みをたやさない彼女を前にして、僕は曖昧すぎる返事をした。  もしかして勘違いをさせてしまったのではないか。  僕は高久さんを彼女に合わせたくなくて土下座までしたわけだが、麻生さんからしてみれば、男の僕がそうまでする理由は自分に気があるから、と思ってしまうのは自然なことのような気がする。 「こんばんは」  背後から声をかけられ、ビクッと体が揺れる。  ゆっくり振り返ると、そこには高久さんがいた。
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