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「こんにちは」  声は意外にもそっけなさを感じるほど低く乾いていて、声変わり後まもない少年のようだった。  だけどそのギャップさえ魅力に感じてしまう。 「本日担当させていただきます、芳村です。どうぞよろしくお願いします」 「こちらこそ。よろしくお願いします」  名刺を手渡すと、彼のものも差し出される。  その流れるような自然な仕草と、指と爪の美しさにうっとりする。  リラックスした気負いのない態度に、あっさりとした話し方。  男性会員の中には、同性である僕に対し挑むような視線や態度を示してくる者も中にはいるが、彼からはそのような対抗心のようなものはまったく感じられず、むしろ、僕を見下ろす瞳には、初対面であることを感じさせない親愛の色が浮かんでいる。  ああこれは老若男女問わず絶対モテる、と瞬時に思った。  そして同時になぜ彼のような人がここにいるのかとあらためて思う。  権利を勝ち取った女性スタッフにより無事お茶が運ばれてきたあとは、記入してもらった用紙にざっと目をとおした。 「ご結婚相手に求めるものや、絶対に譲れないことなどはありませんか」  条件を書くフリースペース欄は白紙だ。  相手の年収や結婚後は専業主婦を希望するかどうかや離婚歴の有無など、どの欄も『こだわらない』の選択肢に〇がついている。 「別にないかなぁ。やっぱり人って会ってみないとわからないですし」 「女性会員様全員にお会いする気ですか」  モテる男のイメージが頭に浮かんでいたせいで、僕はあるまじき失言をしてしまったのだけど。
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