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「芳村さんって、ご結婚されてないんですね」  いつから後ろにいたのだろう。  すでに知っていることを確認しながら、誰にも見えない角度で高久さんが僕の左手を取る。  薬指にはまる指輪を意味ありげに指先でさらりと撫でられ、昨日の今日で変な声が出そうになるのをすんでにこらえた、その時。 「あ、あの、こ、こちらの方はもしかして」  麻生さんに尋ねられ、慌てて冷静を装い、高久さんを紹介した。  あの完璧すぎるプロフィール写真以上の本物を前にして、僕に乗り換えたはず(?)の麻生さんの目の中にはハートが浮かんでいる。 「はじめまして、高久と申します」 「あ、あ、芳村さんと高久様……。わたしはいったいどうすれば……」  ふらっとよろけた彼女を、二人同時に支える。  高久さんに笑顔でじっとりとにらまれて、僕は咄嗟に目をそらしてしまった。 「どうされました?」  何事かと受付から飛んできた後輩女性たちによって、貧血のような症状を見せた麻生さんはそのままソファのある個別の相談室へと運ばれていった。  二人きりになったところで耳打ちされる。 「どっちが人たらしですか」 「高久さんこそ、彼女に笑いかけてたじゃないですか」  言い返しながらも、こちらの分が悪いのは自覚している。  まさか二日前の土下座からこんな展開になるとは思っていなかったのだ。
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