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「よっしーがゲイじゃなかったら、うちの娘をもらってもらうんだけどねぇ」
「こればっかりはどうしようもないですからね」
先輩スタッフからのため息まじりのひとことに、鉄板のセリフを返してひと笑い。
家族である母と和人にはいまだ勇気が出なくて言えないでいる秘密を、職場の同僚たちには打ち明けていた。
身内じゃないぶん知られても気が楽だからというのもあるのだけど、仕事柄、世話焼きの人たちが多いため、黙っていると見合い話を勝手にぽんぽん進められていくという危険と、やはり仕事柄、口が堅い彼女たちを信頼しているからというのが大きな理由。
「よっしーこの人、上玉だよ。どうだい?」
ゲイだとカミングアウトしたのはいいが、見合い話に代わった弊害がひとつある。
「いくら上玉でも、うちに登録する人たちは女性が好きで、しかも結婚を希望されているんですから……」
先輩たちはこうやって仕事終わりに新しい男性会員のプロフィールをチェックしながらしょっちゅう、この男はどうかと勧めてくるのだけど、彼らはストレートで結婚相手の女性を探しているわけだから、まず僕が対象になることはありえない。
「でもすごいよこの人。若いのに実家の不動産業を母体にして飲食店をいくつも経営してるって。ほら、よっしーと同い年じゃない」
「これは金持ってるね」
「あら~、いい男じゃないの。派手な顔立ちじゃないけど品があって。私が独身でもうすこし若ければ狙いたいくらいだわ」
「ほんとだ。しかしなんでこんな色男がうちに登録するんだろね。街歩くだけでも結婚相手の候補が五、六人集まってきそうな見た目してるってのに」
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