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「全部は、今は無理です。ドキドキしてしまって、説明の途中で心臓が口から飛び出してきそうです。今日はこのくらいでいいですか。これから小出しにしていくので」 「小出し!」 「あー……やっぱり詳細はラインで送ります」 「芳村さんの声で聞きたいんですけど」  無理難題ばかり言う。  僕は高久さんのように相手の好きなところを目の前で平然と語れるほど、恋愛に長けていないのだ。  だけど―― 「さっき褒めてくれたの、すごく嬉しかったです」  自分にはできないからこそ、高久さんがきちんと思いを伝えてくれたことの難しさがよくわかったし、ありがたかった。  目を合わせると高久さんがまぶしそうに僕を眺める。  彼の伝える勇気と、言葉足らずの僕の気持ちを察する能力があったからこそ、今こんなふうになれているのだと思う。 「このまま押し倒してもいいですか」 「だ、だめです」 「だめ?」  耳の近くで問い返され、びくっと微かに震えてしまった。
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