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 出勤前、ハンカチにアイロンをかける時、いつも折り鶴のことを思いだす。  小学生の頃、病気で入院したクラスメイトのお見舞いに、クラス全員で千羽鶴を折り届けることになった。  先生のレクチャーどおり折り進めていくと、まともな鶴が折れた。  そんな僕の完成品を見てとなりの席の男子がすげー、と言った。  ――なんでそんなきれいに折れるんだ!  感嘆する彼の手元を見てみると、最初の折り目からすでに角と角が大幅にずれていた。  むしろなんでそんな大胆不敵な折り方をしてしまえるのか、僕のほうこそびっくりした。  昔からそうだ。  僕は普通のことを普通にしているだけなのに、人から生真面目で几帳面で繊細だと言われる。  もしかしたらみんな表面ではそんなことを言いながら、暗に教科書どおりのつまらない人間だと思っているのかもしれない。  僕だって本気を出せばいつでも大胆に羽ばたけるぞ、と思いながら、毎日こうやってハンカチの皺をなくして四隅をぴちっと合わせる朝を過ごす。  ちなみにそのとなりの席の彼は、僕の初恋の相手だった。  その後、中学・高校と進んでも一向に女性に興味が持てないでいる。  三十歳を目前にした今なお、その性分を誰かに打ち明けることが怖くて、告白も両想いも性行為も未経験であるあたり、僕はやっぱり僕らしく、大胆に羽ばたけてはいないわけなのだけど。
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